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畠中先輩が参加する打ち合わせは今日でいよいよ最後になり、今回は彼女の職場でおこなった。
仕事は何事もなく終わり、むしろ畠中先輩の仕事が丁寧で驚いたくらいだった。
これから引き継いでいく岡村さんも、何の不安もない人で、仕事に関しては本当にうまく進められていると思う。
でもきっと、これで終わりじゃない。
このビルには宗治郎さんもいるからこそ、何かあるなら今日かもしれないと、さっきから嫌な予感がしている。
「楓さん、大丈夫?」
「……大丈夫、ありがとう」
覗き込む楽に頷いて見せたけれど、心の中は何も大丈夫じゃない。このまま終わってくれ、頼む……! と何度も祈りながら、1階までエレベーターで降りた。
「それでは今までありがとうございました。この企画から私は離れますが、岡村が引き続き頑張りますので。私も何かあればいつでもサポートいたします」
穏やかに笑っている……ように見せているだけの畠中先輩が、そう言って僕を見つめた。
目を逸らしたら負けだと、僕も畠中先輩に視線を向けた。
「ありがとうございました。私たちのほうも、今後は私と清水のふたりで対応させていただきます。岡村さん、よろしくお願いしますね」
村田さんの発言に驚きながら彼を見ると、こそりと隣にやって来た清水さんが、「急に決めてごめんね。こっちが4人なのは多いし、勉強してもらいたいところはだいたい見てもらえたから良いかなと思って……」と申し訳なさそうに囁いた。
楽も僕と同じように少し驚いていたけれど、清水さんの言うことも最もだし、畠中先輩がいないのなら、そこまで警戒する必要もないから何の問題もない。
結局、僕がこの企画に参加しようがしまいが、仕事においては関係なかったようだ。
打ち合わせの度に、清水さんが嫌な気持ちになるようなこともなく、それだけは本当に良かった。
「すみません……! 別件の対応が入りましたので、私はこちらで失礼いたします。今後ともよろしくお願いします」
これまでのことを頭の中で振り返っていると、岡村さんが慌てた様子で会釈し、急いでエレベーターで上がってしまった。
この後に食事にでも誘われたらどうしようと、そんなことも考えていたから、岡村さんがこうして抜けてくれたことにある意味で感謝した。
「じゃあ私たちも失礼します」
改めて村田さんが頭を下げ、僕たちもそれに続く。
顔を上げ、それから自動ドアを出れば今日は終わる、あと少しだと、そう思っていたけれど、やっぱり嫌な予感は的中したようで、畠中先輩が僕を見て意地悪く笑っていた。
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