第二話 殺人

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「うそ……」  真冬は震えたが、すぐに首を振る。 「みんな大丈夫だと思う。私たち、飲み会してて……朝五時まで、同じ部屋で酔い潰れてたの。それ以降に起こった事件じゃないよね?」 『正確な時刻はわからないわ。でも、それなら大丈夫そうね。リカルドがテレビを観て私に電話をかけてきたのが、七時。その時点で報道されたのなら、警察が動いた……発見時刻はもっと前よ。念のためにみんなが無事か確認して私に一報してくれる?』 「うん、わかった。ねえ……夏美ちゃん。まさか儀式の再現じゃないよね? これ」  もし――中米で広く行われていた、心臓をえぐり出す、あの生け贄の儀式が現代に蘇ったのだとしたら怖すぎる。 『今のところ心臓をえぐり出されたという表現が出ていない以上、違うんじゃないかしら。それにしては、チャックモールで遺体が発見されたというのが引っかかるけど』 「そうだよね……」  少しだけ、ホッとする。 『今日は、どこにも出られないと思うわ。警察とのやりとりは、あんたに任せて大丈夫ね? 事情聴取ぐらいされるかもしれない』 「うん。みんなの通訳は私がする」 『頼んだわよ。じゃあ、一旦切るわね』  通話を終えて、真冬はスマホをポケットに入れて走り出した。  乱れた髪もそのままに。  廊下に出る。ロビーの方向が騒がしい。みんな部屋から出てきたのだろうか。  真冬はまず、真正面にある湊の部屋に向かった。  ほどなくして、扉が開く。 「……はい?」  眠そうな顔で、目をこすりながら湊が応じた。 「湊くん。大変なの。【月の集落】で観光客が殺されたって……」  真冬が早口で告げると、湊はびっくり仰天していた。 「うそでしょ! それって……」 「私たちじゃないと思う。でも、確認してって夏美ちゃんから電話があって」 「それはそうですね。颯真先輩と沙友理先輩の部屋に行きましょう!」  湊が合流し、隣の位置するふたりの部屋の扉をがんがん叩いた。 「ういーっす……」  颯真が気だるそうな様子で顔を出す。 「部長。沙友理さんは無事?」 「沙友理? 今、シャワー浴びてるけど?」 「入っていいですか? 確認したいんです」 「お、おいおい」  颯真が止める間もなく、真冬は部屋に入る。 「沙友理さん、無事ですか?」  バスルームの扉越しに、呼びかけた。 「はあ? なに? ……真冬?」  シャワーが一旦止まり、沙友理が聞き返してくる。 「はい。実は、殺人事件があったんです。殺されたのは観光客だって話で……それで夏美ちゃんがみんなの無事を確認してくれって」  真冬は颯真にも聞かせるために、声を張った。 「……ええ? どういうこと、それ。待って。すぐ、出るから」 「わかりました。湊くんと私は廊下で待ってます」  真冬は颯真に頭を下げ、廊下に出た。
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