プロローグ

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 ロサンゼルスで乗り継ぎをして、一行はエスメラルの首都エスメラルシティに飛んだ。  空港に着いたときには、みんなへとへとになっていた。  特に体力のない真冬は、疲れてどうにかなりそうだった。  へろへろになりながら、真冬は入国審査を済ませる。  英語で話しかけられたので、英語で返した。  後ろを振り返ると、誰かが止められている――ということもなく、みんなあっさりと入国審査を通過していたので、ホッとする。助けはいらなさそうだ。 「先輩、大丈夫ですか?」  荷物を取りにいくべく通路を歩いていると湊に声をかけられ、真冬はへらりと笑う。 「うん、大丈夫。それに湊くん、うちのサークルは先輩呼びしなくていいんだよ」 「いやあ、でも……やっぱり先輩って付けちゃいますよ」  湊の笑顔は爽やかだ。  あまり目立たないが湊は好青年――といった感想を持てる、こざっぱりとした外見をしていた。  少し茶色い髪は染めているのだろうが、彼の白い肌によく似合っている。  郁と颯真以外の部員とはあまり話したことはないので、湊の性格はよく知らない。真っ先に真冬を心配してくれるあたり、優しい子なのだろうと漠然と思う。 「そう……? まあ、呼びやすいほうでいいよ」 「じゃ、真冬先輩で」 「うん」  会話を交わしているうちに、荷物受取所に着く。 「俺、英語もスペイン語も全然わからないから、真冬先輩に頼り切りになりそうです。よろしくお願いします」  荷物を待っている間に、湊が頭を下げてきた。 「通訳なら、いくらでもするよ。湊くんって何学部だっけ?」  そんなことも知らないのかと自分で呆れながらも、尋ねる。 「あれ? 知りませんでしたか? 俺は経済学部です。部長と沙友理先輩と同じです。真冬先輩は、犯罪心理学部ですよね」 「よく知ってるね」 「そりゃ、知ってますよ。真冬先輩って有名人ですから」 「ゆ、有名ってどういう風に?」  興味半分、聞いてみる。 「変わり者の天才少女……って」  やはり、ろくなうわさではなかった。  真冬は苦笑するしかない。 「しかし、思った以上に参加者少なかったですね」 「旅費、結構かかるからね」  湊が話を変えてくれたので、ホッとして乗っかる。 「湊くんは、どうして今回の旅行に参加したの?」 「単純に、中米に行ってみたかったんです。中南米って、機会がないと行けないじゃないですか」 「たしかに」  中南米は日本人の旅行先としてはマイナーに入る。 「真冬先輩がいてよかったですよ。部長と沙友理先輩はふたりの世界って感じだし」 「…………」  ふたりの世界を隣席で繰り広げられるよりマシだろう、と言いかけて真冬は口をつぐむ。  すぐ傍に沙友理がいるので、聞きとがめられたら厄介だ。  ベルトコンベアが、のんびり荷物を運んでくる。  みんながスーツケースを取り終えたところで、ようやく出口に向かう。  真冬はハッとして、ポケットからスマホを出して、機内モードを解除した。  少し飛行機の到着が遅れてしまった。  空港のスタバ前で、と夏美と待ち合わせしたが……。  真冬は急ぎ足で、スーツケースを転がしながら急ぐ。  颯真と沙友理と湊もついてくる。  さすがに疲れたのか、異国で緊張しているのか、颯真と沙友理が静かなのは珍しい。 「真冬!」  夏美が走ってきた。先に見つけてくれたらしい。 「夏美ちゃん!」  叫んだ真冬に、夏美が抱きついてきた。  よく日焼けした肌。快活な表情。短く切られた髪。  なにもかも十三年前と変わっていない。  もっとも、最近も旅行の打ち合わせでスマホを介してビデオ通話をしていたので、そこまで久しぶりという感じがしないが。  夏美は小柄なほうだが、真冬が更に小さいので見下ろされる形になる。 「ようこそ! エスメラルへ!」  抱擁を解き、夏美は真冬だけでなく、その後ろの部員に向かっても芝居がかって告げた。
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