第一話 遺跡

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 【月の集落】の見物を終え、夏美とリカルドと共にレストランに向かう。  タコスを出してくれるレストランで、色んなタコスが選べる。 「みんな、お疲れ様。このあと、私は大学に戻らないといけないから、リカルドに任せるわね。真冬、通訳頼むわよ」  夏美にお願いされて、真冬はタコスを頬張りながらうなずく。 「疲れていないのなら、遺跡とビーチに連れていってもらったら? 大きな遺跡がビーチの近くにあるから……遺跡を見たあと、夕暮れに染まるビーチを見にいったら? きれいよ」  夏美に勧められたものの、真冬はためらう。  体力のない真冬は、もうホテルに戻りたい――というのが本音だった。 (でも、他のみんなは見て回りたいかな)  真冬は周囲をうかがう。  すると、意外なことに颯真が首を横に振った。 「せっかくですけど、今日は休みます。俺は時差ぼけになってないんですけど、みんな辛そうだし。俺も長時間フライトのせいか、足が痛いんで……。今日はホテルに帰ってゆっくりするってことで」  颯真の主張に真冬は心のなかで感謝し、何度もうなずく。  湊と沙友理も同意見だったらしく、うなずいていた。 「あら、そう? あと五日間いるんだっけ? それなら焦ることもないわよね」  夏美はあっさりと意見を受け入れる。 「リカルド。ホテルまで送ってあげて。みんな、休みたいんですって」 「わかりました」  夏美がリカルドに依頼し、彼は快く引き受ける。  みんなが食べ終わったところで、夏美が立ち上がる。 「じゃあ、私はここで。ここは払っておくから」 「え、夏美ちゃん」 「まあまあ、真冬。ここは大人にかっこつけさせなさいよ。エスメラルにようこそ記念のおごりよ。みんな、気にしないでね」  夏美がウィンクすると、颯真と沙友理と湊は申し訳なさそうにしながらも頭を下げていた。 「明後日なら、合流できると思う。リカルドは毎朝ホテルに迎えに来てくれるから、彼にプランを伝えて。真冬。私、あんたにリカルドのメールアドレス伝えたわよね?」 「うん」 「よし。なにかあったら、私に連絡してもいいし、リカルドに直接連絡してもいいわよ。――じゃあね!」  夏美は、風のように去っていった。  その日は疲れていたので、夕食は外食ではなくホテルで食べようという話になった。  ホテルのレストランは割高なので、リカルドに頼んでスーパーに寄ってもらう。 「せっかくだから、飲み会しようぜ」  颯真の提案に、みんなが賛成する。  これ以降はホテルで休めるのだから、飲み会に参加する体力ぐらい回復するはずだ。 「あれ? でも、湊くん。一年生だよね? まだ二十歳じゃないからお酒は飲めないんじゃない?」  真冬は、ふと気づいて湊を見やった。  すると湊はばつが悪そうに頭をかいた。 「実は俺、留年して大学に入ったんです。だから、もう二十歳ですよ」 「なあんだ。……そもそもエスメラルでは成人は十八歳なんだから、問題ないんじゃない? ……うん? この場合、どっちの法律が適用されるのかしら。まあいいか。どちらでも問題ないんだし」  沙友理が笑い、酒の瓶を物色する。  みんなで、夕食だけでなく飲み会用のお菓子やお酒を、颯真が押すカートのカゴに入れていく。  真冬も地元の缶ビールをそっとカゴに入れた。  午後六時に颯真と沙友理の部屋に集合――ということになり、真冬は自分の部屋に戻った。  眠ってはいけない、と思いながらも、疲れ切った真冬はベッドに横たわった。  ほどなくして、あらがえない眠気が真冬を引きずりこんでいった。
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