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ー 20分前 ー
「はぁ…はぁ…、駄目だもう…。」
フラつきながら歩いていた恐神は通行人とぶつかり、そのまま地面に倒れた。
「なんだお前、あっぶねぇなぁ!」
ぶつかった若い男は倒れた恐神の腹に一蹴り喰らわせてから去っていった。
「だ、大丈夫ですか?」
通り掛かりの女性が恐神に声を掛けた。
「はぁ…はぁ…、は、離れてください。」
「…え?」
恐神は息苦しそうに言ったが、女性は言葉の意味が分からなかった。
「ぐ、ぐわああああ!」
恐神は頭を押さえて苦しみ出した。
「あの、救急車呼びますから!」
「駄目だ!す、すぐに逃げて!ぐわああああ!」
恐神は次の瞬間、パタリと動かなくなった。女性は何が起こったのか分からずに、倒れた恐神の肩にそっと触れた。
スッ!「…え?い…いたっ。」
次の瞬間、女性は首から大量の血を噴き出しながら仰向けに倒れ、身体を痙攣させた。周りにいた数人の野次馬は、余りに一瞬のことで全員が数秒間固まったが、1人が取り乱したように声を上げると、一斉に散り散りになりその場から逃げた。
「はぁ…はぁ…。」
恐神は血がべっとりと付着したナイフを振り払いながら立ち上がった。
「お、おい、誰か警察に。」
「あの女の人助けないと!」
「あいつヤベェぞ。目の焦点が合ってねぇ、薬でもやってんじゃねぇか!?」
恐神はぐるりと周りを見回すと、1人の中年男性と目が合った。
「…ひっ、ななな何だよ!」
男性は恐神の殺気を感じて振り返って逃げようとしたが、瞬時に男性に追い付くと躊躇うことなく背中にナイフを突き刺した。強い力で刺されたナイフは男性の心臓を突き破り、男性はその場で口から血を噴き出し即死した。
「うわあああっ!」
「に、逃げろ!!」
辺りは血溜まりと悲鳴に包まれ、まさに阿鼻叫喚、地獄絵図そのものだった。しかし、ここから恐神の動きは加速した。逃げ惑う野次馬や、事件にすら気づいていない老若男女構わずナイフで襲いかかり、僅か1分間という短い時間で10人以上が赤く染まり地面に倒れた。
息を切らしながらも、次の獲物を探す恐神の視線に止まったのは、パニックになった人混みで親から離れてしまった小さな女の子だった。女の子が怯えた様子で恐神の顔を見ていると恐神はナイフを構えた。
女の子は「ママー!」と叫びながら交差点を走り出した。恐神が女の子に追い付くのは一瞬だった。ナイフを一文字に振った恐神は間違いなく肉を斬った感触を覚えた。しかし、目の前に倒れていたのは女の子ではなく、大人の女性…それがかえでだった。
予想外の出来事に恐神は一瞬油断をした。その瞬間を見逃なかった周りにいた男性の1人が恐神のナイフを持つ手に回し蹴りをして、ナイフを弾き飛ばしたのだ。不意を突かれた恐神は、その男性に立ち向かうことなくその場から逃走した。
「逃げたぞ!!」
男性の叫びに人混みから姿を現したのが賢太郎だった。
「どっちに!?」
「あっちだ!」
賢太郎は直ぐ様スマホで仲間に状況を伝えると、倒れているかえでを泣きながら揺すっている女の子の姿が目に入り、その子を抱きかかえて近くの交番に預けた。
そして再び交差点に戻ると、かえでの元に駆け付けていたすみれが視界に入ったのだった。
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