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ー 6年前 ー
あの日、社会人のかえでと高校生のすみれは2人で買い物に都内まで出てきた。2人で何店もアパレルショップを巡り、雑誌で見つけたカフェに並んで入り、目的を達成した2人はそろそろ家路に着こうと駅を目指して歩き出した。
「いやぁ、目的のもの全部買えて良かった!」
「カフェのパンケーキも美味しかったしね。」
「あ、あれだ!クレープ!まだ食べてない!」
「え、今から?」
「丁度近くに有名なクレープ屋さんがあっまんだよ。」
かえでは鞄から雑誌を取り出してクレープ屋を探し始めた。
「お姉ちゃん、私も1個忘れてた!お母さんとお父さんにケーキ買ってこうかと思ってたんだ!」
「お、じゃあさ電車の時間もあるし、バラバラに買いに行って駅の改札で待ち合わせでどう?」
「いいよ!私はバナナチョコホイップでよろしく!」
「オッケー!じゃあまた後で。」
2人はそこで分かれた。
先にケーキの買い物を済ませたすみれは約束の改札前でじっとかえでを待っていた。
「…遅いな、お姉ちゃん。予定の電車の時間来ちゃうよ。」
すみれが、かえでが来るはずの方向を見つめていると、視界の遠くに見える人混みが何かを見てざわついているのが分かった。
「…何だろ。」
次の瞬間、視界に見える人たちが一斉にこちらに向かって走ってきた。
「ヤバイヤバイヤバイ!」
「殺されるぞぉー!」
「皆逃げろぉ!!」
すみれの耳には、自分の前を走り通っていく人たちのそんな言葉が聞こえ、何が起きているのか理解ができず、ただただ遠くを見て固まってしまっていた。
「おい、嬢ちゃん逃げろ!」
サラリーマン風のスーツ男性がすみれに話し掛けた。
「な、何があったんですか?」
「駅前の交差点でナイフを持った男が暴れてるんだ!何人も刺されてる!こっちに来る素振りがあったから皆逃げてんだ、君も…あれ?」
すみれは男性の言葉の途中で皆が逃げてくる方向に逆に向かって走り出した。
「ちょっと!あんた死んじまうぞ!」
男性の声はもうすみれには届いていなかった。すみれはケーキが入った袋などきにも掛けずにひたすらに走り続けた。
…お姉ちゃん。お姉ちゃん。
嫌な予感がした。いつも私のことばかりを気に掛けてくれるお姉ちゃん。今日だって都内に行きたい私の願いを叶えてくれたお姉ちゃん。…いつもならこんなに私を待たせたりしない、もしかして…。
息を切らしながら駅から出たすみれの視界には数え切れないほどの倒れた人と血溜まりが映った。
「はぁ…はぁ…、これがさっきまで私が歩いてた場所なの?」
痛いほど鼓動している心臓を押さえながら、すみれはかえでの姿を探した。もしかしたら怪我人の手当てとかをしてるのかもしれない。そう考えながら歩いていたすみれの期待は、すぐに打ち砕かれた。
交差点の真ん中で倒れている女性。反対方向を向いており顔は見えないが、着ている服、そして周りにクレープが2つ落ちているのが見え、すみれは心臓が止まりそうになった。
「お、お姉ちゃん!?」
破裂しそうな心臓を押さえながら駆け寄ると、それは間違いなくかえでだった。
「お姉ちゃん!!」
「…す、すみれ。」
目がぼんやりと開いていたが焦点が合っていなかった。すみれはかえでの首の後ろから血が垂れているのが見えて、慌てて鞄に結んでいたスカーフを解き傷口に当てて押さえつけた。
「お姉ちゃん!死なないで!」
「君!大丈夫か!!」
すみれが声の主に振り向くと、そこには賢太郎の姿があった。
「警察だ!友達か?」
「姉です!」
「今救急車が来るからな、俺は犯人を追う!必ず助かるから、そのままお姉ちゃんの傷口を押さえてやってくれ!」
賢太郎はそう言うと、犯人を追ってその場から離れていった。
…絶対助けるんだ。
すみれは賢太郎の言葉を胸に救急車の到着を待った。
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