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ー 百目鬼(どうめき)警察署刑事課 ー 「おーい、桐生くん。」 刑事課の桐生賢太郎(けんたろう)は、外回りから帰ってきたところを、同僚の青葉(あおば)すみれに呼び止められ、イラッとした表情で振り返った。 「…何だよ、青葉。」 「別に用事はないよ!顔見かけたから。」 「あのな、何度も言うけど桐生"くん"は止めろ!確かに同期なのは分かる。俺と青葉は今年の4月に一緒に百目鬼署に入職した同期だ。けどな、俺は12歳も歳上なんだよ。分かるか、一回りだぞ一回り!干支が一緒なんだ。」 賢太郎は間髪入れずに言い切り、呼吸を荒くした。対して、すみれはニコッと微笑んだ。 「35には見えないよ!まだ全然20代でいけるよ、桐生くん。」 全く理解してくれないすみれに、賢太郎は頭を抱えた。 「…もういい。」 「じゃあ戻ろう!」 生き生きと歩き出したすみれの後ろを賢太郎は眉をひそめながら歩いた。何を隠そう2人は刑事課の同じ係に配属され、席も隣なのだ。くん付けで呼ばれることの指摘は数え切れないくらいしているが、いつもすみれの笑顔とテンションに押し負けていた。 執務室に戻ると2人の係長である鬼怒田鎮(きぬたまもる)が、2人の帰りを待ちわびてた。 「お!2人同時に戻ってくるとは、相変わらず仲良いな。」 「どこが仲良いんですか、そのからかいもいい加減にしてくださいよ。」 賢太郎は鬼怒田に冷たい視線を送った。 「相変わらず桐生は手厳しい奴だ。それよりも、入職1か月の面談を忘れててな、今から順番にやりたいんだが…じゃあ桐生からにするか。隣の会議にいるから、5分後くらいに来てくれ。」 「わ、分かりました。」 賢太郎は疲れた表情をしながら自席に座った。 「ところでさ、桐生くんは何の件で外回りしてたの?」 「…朝礼で係長から報告があっただろ。研修の一環で、今日は交通課の人とパトロールだって。青葉は来週だ。」 「私の予定まで覚えてくれてるの!?さっすが桐生くん!」 賢太郎は溜め息をつきながら立ち上がり、手帳を手に取ると鬼怒田が待つ会議室に向かった。 会議室に入ると、鬼怒田が笑顔で出迎え、賢太郎は鬼怒田の対面に座った。 「今日は研修お疲れさん。入職後の1か月面談を始めるが、俺と桐生は立場は違えど歳は1歳違いだ。そんなに気を遣わなくていいからな。」 「係長こそやり辛そうですよ。」 「ははは、まぁ多少は気を遣うさ、良い意味でな。なんだかんだ青葉とも上手くやってくれて助かるよ。」 「…上手くかはどうかは疑問ですけどね。」 「まぁ引き続き頼むよ。俺から1つ聞きたいことがあってな。」 鬼怒田は身体を前のめりにした。 「桐生、6年前の恐神蓮生を逮捕したのがお前だって話を聞いたんだが、本当か?」 「…えぇ。」 賢太郎はその事には触れて欲しくなかったように目を逸らしながら答えた。 「噂ではその恐神蓮生は、秘密裏に釈放されたって話だが…。」 「…それが俺が不破(ふわ)警察署を退職した理由ですから。」
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