125人が本棚に入れています
本棚に追加
逃げた恐神は、目的地などは無くひたすらに走り続けていた。
「はぁ…はぁ…はぁ…、ぼ…僕は一体何をしたんだ…。」
血塗れの服はすれ違う人から不審な目で見られ、悲鳴を上げる人も多くいた。恐神はそのまま狭い路地に入り身をくらました。
一方、交差点付近で怪我人の状況を把握していた賢太郎は、道路に落ちていたリュックサックを拾い上げた。中を見ると財布が入っており、運転免許証を見つけた。
「…おそれかみれんなま?…何て読むんだ?」
この時、賢太郎はまさかこのリュックサックが殺人鬼の物とは思いもしなかった。
後に、命を取り留めた被害者への聞き込みで、このリュックサックの持ち主が殺人犯だと判明するのは半日後であり、警察は一斉に恐神蓮生の捜索を始めた。
恐神は、偶然見つめた空き家の窓を割り、中で身を隠していた。
「…僕が人を殺したのか?僕が…。」
恐神は押入れの中で一晩中震えていた。
気が付くといつの間にか眠っていたのか、押入れの隙間から陽の光が差し込み、目を覚ました。
夢だと思いたかったが、血塗れの服はそのままで現実なんだと理解した。恐神は、深呼吸をした。
「…自首しよう。」
意を決して押入れから出て立ち上がると、またあの時と同じ激しい頭痛に襲われた。
「ぐ、ぐわああああ!」
叫びながらのたうち回った恐神は、台所から錆びた包丁を手にし、家の中で振り回し破壊を始めた。その物音に気付いた隣の住人である初老の男性が玄関の扉を叩いた。
「おい!誰かいるのか?」
恐神は一瞬ピタリと動きを止めた。
「…駄目だ、駄目だ。」
恐神は言葉とは裏腹に玄関の扉を蹴り破ると、何事かという目で見ていた男性の胸に包丁を突き刺し、その場を逃走した。
その光景を見ていた通行人が直ぐ様に救急車と警察に連絡を入れた。
その情報は直ぐ様、恐神の捜査をしていた戸村と賢太郎の元にも連絡が入った。
「桐生、ここから近いぞ。」
「ええ、その場所に向かいましょう。」
「桐生、相手は大量殺人鬼、そして今日も人を刺している連続殺人鬼だ。無茶だけはするなよ。」
「…先輩こそ。」
2人は通報された場所に向かった。
「キャーッ!!」
突如、女性の悲鳴が響き渡り、2人が声のした方に向かうと、賢太郎の目線の先、十字路を血塗れの服の人物が曲がっていくのが見えた。戸村は悲鳴を上げた女性の元に駆け寄った。
「先輩!奴です!」
賢太郎は走るスピードを上げて十字路に向かった。
「おい、桐生!」
戸村は、悲鳴を上げた女性に怪我が無いことを確認すると賢太郎を追い掛けたが、十字路を曲がった先で姿を見失った。
「…くそ、あの馬鹿、暴走しないといいんだが。」
賢太郎も曲がったところで既に恐神の姿は見失っていたが、逃亡者の考えを読み、十字路や分かれ道があった場合は左側に曲がって恐神の姿を探した。
その時、視界の先に血塗れのシャツを着た人物を見つけた。
「…ん?おい!恐神!!」
賢太郎が叫びながら走り寄ると、恐神は狭い路地に入り込んだ。
「桐生!」
「戸村先輩、こっちに恐神が逃げました!」
「何だと!?」
2人も路地に入り込んだ。
「…どっかの住宅の敷地内に潜んでる可能性があるな。分かれて探そう。」
2人は一軒ずつ民家の敷地に入り恐神の姿を探した。
「いたか!?」
戸村が何かの物音を聞き、桐生に問い掛けた瞬間、どこかの民家で大型犬が吠え出した。
最初のコメントを投稿しよう!