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賢太郎が犬が無く民家に駆け寄ると、塀をよじ登って来た恐神が道路側に落下した。 恐神は賢太郎と目が合い逃げようと立ち上がったが、賢太郎の素早い動きには勝てず、そのまま背負投げをされ、手錠を掛けられた。 「残念だったな、恐神。殺人鬼も犬には敵わなかったか。」 「チッ。刑事さんよ、俺を捕まえたことはさぞかし大きな手柄だろ。」 恐神は刑事を睨み付けながら言った。 「生憎、俺は手柄などは意識して仕事はしていない。ただ、悪党を捕まえる使命を全うするだけだ。」 「ふん、カッコつけやがって。刑事さん、名前は?どうせ俺は死刑だろ?俺を捕まえた刑事の名前、冥途の土産に教えてくれよ。」 「…桐生だ。」 「桐生…さんね。任務ご苦労さん。」 恐神はニヤリと笑った。と同時に戸村と事前に呼んでいた応援部隊の刑事たちが駆け付けてきた。 「立てよ!」 「ふん…うっ、うわああああ。」 恐神の様子がさっきまでとは変わり、突然苦しみ出した。 「おい、どうした?演技だとしたら無駄だぞ!」 「はぁ…はぁ…、け、刑事さん。」 明らかにさっきとは声のトーンが違う恐神を見て賢太郎は気味悪がった。 「…何だよ。」 「僕は人を殺したんですか?」 「…何を言ってやがる。」 「桐生!よくやった!署に連行するぞ。」 戸村が賢太郎から恐神を受け取ると、応援部隊が乗ってきたパトカーに恐神を乗せた。助手席に乗り込んだ戸村はスマホを取り出し電話を掛けた。 「…私です。黒帳1号を確保しました。」 賢太郎は発車したパトカーを見つめていた。初めて確保した犯人が大量殺人犯ということもあり、賢太郎の手は震えていた。 ー 現在 ー 恐神は頭痛が治まらずに頭を抱えていた。 「僕も最近知ったんだよ。恐神蓮生、君が僕とエンジェルよりも先に人体実験の対象に選ばれていたことにね。」 「…人体実験?」 冬子は、春哉の言葉を聞いて呟いた。 「恐神蓮生、君は孤児院出身で身寄りはいない。詳しい年月は分からないが、ある日君は事故に遭い植物状態となってしまった。」 春哉は淡々と話を続けた。 「そんな君に国が目を付けた。それが人体実験、クローン生成の実験体だよ。」 「…一体何の話ですか。」 冬子は信じられないという表情をしたが、恐神は頭を押さえながら顔を上げ、春哉に視線を向けた。 「…やはり、私もそうでしたか。」 ー 不破警察署 ー 秋菜は、潤一の事件が進展しないことに苛立ちと憤りを感じていた。潤一の事件、そして恐神事件について深掘りをしようとすると怪訝そうな表情をする戸村に対しても不信感を抱いていた秋菜は、戸村が休みの日に潤一の机の引き出しを漁ってみることを計画していた。そして、今日戸村は急遽ではあるが休みの連絡があったため、秋菜は執務室内の人が少なったタイミングの今、潤一の机を漁り始めた。 恐らく、潤一の死後に机やロッカーなどの中身の確認はされているはずで、目ぼしいものは残ってはいないだろうと踏んでいた。そして、その勘は見事に的中しており、全ての引き出しを漁っても何も目ぼしいものは見つからなかった。 「はぁ…私は何の役にも立てないなぁ。」 「あのぅ。」 執務室の入口から声を掛けられ、秋菜が視線を向けると賢太郎の姿があった。 「あ、この前の。あいにく今は戸村係長は席を外してまして。」 「いえ、今日はあなたに会いに来たんです。」 賢太郎は秋菜のことを指しながら言った。 「わ、私ですか?…ちょっと待ってください。」 秋菜が賢太郎の元に駆け寄ると、賢太郎は封筒を取り出した。 「少し何処かでお話しできませんか。…立花刑事の件です。」 秋菜は、誰かに見つかって戸村に報告されると面倒なことになりそうだと思い、違う階にある会議室に賢太郎を案内した。
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