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ー 天野宅前 ー
"ピンポーン"
「…はい。」
「度々すみません、恐神です。」
「まだ何か?とりあえず向かいますので少々お待ちください。」
恐神と夏恋は、門の前で父親を待った。
「あ、恐神さん、ほっぺにクリーム付いてますよ。」
夏恋はそう言いながら鞄からティッシュを取り出し拭き取った。
「面目ないです。」
「甘い物好きなのは分かりますけど、がっつき過ぎですよ。私コーヒーだけだったんで一口くらいくれるのかと思ったら、休憩も会話もなくずっと食べ続けてるんですもん。」
「…うーん、となると毒島さんに一口取られる可能性があったということですから、ずっと食べ続けていたのは正解だったということですね。」
ニコッと微笑みながら言う恐神に、夏恋は目を逸らして、頬をピクつかせた。
すると、玄関の扉から父親が出てきたのが見えた。
「…今回は少し遅いですね。」
恐神がぼそりと呟いた。
父親は門を開けて2人を中に通した。
「何か忘れ物ですか?」
「はい、お宅の何処かに忘れ物をしてしまいまして、探させていただいてもよろしいですか?」
「え、えぇどうぞどうぞ。」
父親は玄関の扉を開いて家の中に2人を入れた。夏恋はチラッと振り返って父親と見ると、さっきまでとは違い明らかにイラついている表情をしていた。
「確か、先ほどお邪魔した応接室はこっちでしたかな。」
恐神はわざと部屋を通り過ぎ、さっき見れなかった廊下の曲がり角の先を確認した。
「あ、あの!応接室はこっちですよ!」
父親がそう言うと、恐神は足を止めて振り返った。夏恋には父親が焦っているように感じた。
恐神は、父親の待つ応接室に向かいながら夏恋の前を通り過ぎる際、夏恋にだけ聞こえるようにぼそりと呟いた。
「流美さんはその角を曲がった先にいるはずです。」
夏恋は恐神の言葉を聞いて固まった。
「いやぁ、広すぎて本当に迷子になりますね、このお宅は。」
恐神はわざと大声で話しながら父親と一緒に応接室に入った。
「大事なデータが入ったUSBを落としてしまいましてね、サイズも小さくて、このソファどかさせていただいてもよろしいですか?」
「分かりました。」
恐神は父親にソファの移動をお願いした。
その間、恐神たちが応接室に入ったのを確認すると、夏恋は恐神が言った廊下の先を目指して走り出した。
以前にもこの家には遊びに来たことはあったが、2階の流美の部屋とリビングしか行ったことはなく、廊下の曲がり角の先は見たことも無かった。
「…あれは。」
廊下の先は下に続く階段になっていた。
「…地下室?」
夏恋は階段を駆け下りて、突き当たりにある扉を開けようとしたが南京錠がぶら下がっており開くことが出来なかった。
「南京錠ってことは、後からわざわざ付けた鍵ってことか。」
ガタッ。「っ!?」
扉の向こうから物音が聞こえた。
「流美…流美なの!?私よ、夏恋!流美!ここにいるの!?」
明確な返事が返ってくることは無く、夏恋は次に取るべき行動を考えた。
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