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6年前。
「はぁ…はぁ…はぁ…はぁ。」
青年はいつ倒れてもおかしくないほどの息切れをしながら走り続けていた。
「いたか!?」
さっきよりも近付いている声に驚き、青年は近くの民家の敷地に入り身を隠そうとしたが、目に飛び込んで来たのは、庭に放し飼いされている2匹の大型犬の姿だった。
「嘘だろ…。」
バウ!バウ!激しく吠えながら迫ってくる犬に立ち向かう勇気が無かった青年は、慌てて塀をよじ登り、体勢を崩して道路側に落下した。
「いってぇ。でも、何とか犬からは逃げ…」
背後に気配を感じ振り返ると、若い刑事が青年を見下ろしていた。
「やべ…」
逃げるために立ち上がろうとした青年の腕を掴んだ刑事は容赦なく背負投げをし、そのままコンクリートに青年の背中を打ち付けると、手錠を取り出し青年の手首に嵌めた。
「残念だったな、恐神。殺人鬼も犬には敵わなかったか。」
「チッ。刑事さんよ、俺を捕まえたことはさぞかし大きな手柄だろ。」
恐神は刑事を睨み付けながら言った。
「生憎、俺は手柄などは意識して仕事はしていない。ただ、悪党を捕まえる使命を全うするだけだ。」
「ふん、カッコつけやがって。刑事さん、名前は?どうせ俺は死刑だろ?俺を捕まえた刑事の名前、冥途の土産に教えてくれよ。」
「…桐生だ。」
「桐生…さんね。任務ご苦労さん。」
恐神はニヤリと笑った。と同時に、桐生が事前に応援に呼んでいた刑事たちが駆け付けてきた。
『ただいま、速報が入ってきました。連続殺人犯として全国指名手配されていました恐神蓮生容疑者の身柄が拘束されたと、警視庁が公式発表しました。恐神容疑者は、今月1日に◯◯市の交差点でナイフを用いて無差別に通行人を刺し、7名死亡、10人が重傷を負うという事件を起こし逃走中でした。』
「…ふん、失敗か。」
男性はそう呟くと、テーブルの上のリモコンを手に取り、テレビの電源を切った。
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