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5月某日。
「こ、ここかな。」
毒島夏恋は、スマホの地図を頼りに、裏通りの古びたビルに辿り着いた。見るからに廃ビルのような風体に中に入るのを躊躇って、今一度スマホの地図を見直した。
「…送られてきた住所は間違いなくこのビル…か。」
夏恋は開けっ放しになっているビルの扉からゆっくりと中に足を踏み入れた。無機質で薄暗い通路が奥まで続いており、奥の方は電気も点いておらず全貌が見れなかった。その手前に階段を見つけ、住所の最後が3階になっていたため、上に行くことにした。
階段には踊り場に裸電球が吊るされており、そのぼんやりとした灯りは不気味さを助長させた。
「…ホラー系YouTuberみたいじゃん、私。」
変な脂汗が出始めた夏恋だったが、そのまま3階まで階段を上り切ると、上り切った正面の壁に『恐神探偵事務所』の文字と矢印だけが書かれた手書きの紙がガムテープで貼られていた。
「…え、これ看板的なやつ?」
夏恋は更に不安を募らせながらも、矢印が差す右側を覗き込むと突き当たりの扉の部分だけ灯りが点いていた。見たところ扉には看板らしき表示は無い。
夏恋は扉に着くと、横にあるインターホンのボタンを見つけて、躊躇いながらも押してみた。
「…ん?鳴ってるのかな?」
夏恋は音が鳴っていないように感じて扉に耳を近付けた。
バン!ゴンッ!「いったぁ!!」
突然勢いよく開いた扉に頭を強打した夏恋は、あまりの痛さにその場でうずくまった。
「…誰もいない。」
ぼそりと聞こえた声の主を見ると長身の綺麗な女性が立っていた。その女性は、正面を見ており、うずくまっている夏恋には気付いておらず、そのまま扉を閉めようとした。
「ちょ、ちょっと!」
夏恋は足を伸ばして扉を止めた。
「ん?あら、こちらにいらしたのですか。扉の中には立ち上がった方が入りやすいかと思いますが。」
「え、あの、これはですね…。」
夏恋の言葉の途中で、女性はそそくさと中に入っていってしまい、夏恋は慌てて女性を追い掛けた。
中は一般家庭の家の造りだが、外観に比べてとても綺麗に感じた。廊下には絨毯生地が敷かれ、靴のまま歩いて大丈夫な仕様になっており、夏恋が不機嫌そうな表情で女性に追い付くと、女性は急に立ち止まりくるっと夏恋の方を向いた。
「申し遅れました。私、この探偵事務所で秘書などを行っています、鬼塚冬子と申します。ご予約の毒島様でよろしいですか?」
「は、はい、毒島夏恋です。」
「先生は多分昼寝をされていると思いますので、少々お待ちください。」
冬子は、異様に真っ黒に塗られた扉の前で止まり、ノックをしながら中に入るとすぐに扉を閉めた。夏恋は気になり扉に耳を近付けて中の様子を伺った。
「先生、ご予約のお客様がお見えになりました。…先生、起きてください。」
中から聞こえてくる冬子の声に夏恋はクスッと笑った。
ガンッ!!「ぐわーっ!!」
「えっ!?」
中から突然、物凄い音と悲鳴が聞こえ、夏恋は驚いて扉から遠ざかった。すると、ガチャッと扉が開き、冬子がひょっこりと顔を覗かせた。
「お待たいたしました。どうぞ。」
冬子に部屋の中に案内された夏恋が最初に見たのは、いくつもの髑髏があしらわれている豪華な椅子に座りながら頭を押さえている1人の男性だった。
「先生、お客様の毒島夏恋様です。」
「…は、はい。ようこそ、毒島さん。」
男性は頭を押さえながら立ち上がるとシャツの胸ポケットから名刺を取り出し、夏恋に手渡した。
「探偵の恐神蓮生です。どうぞ、そこのソファにお掛けください。」
恐神はニコッと微笑んだ。
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