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夏恋は、廃ビルの出入口でようやく恐神に追い付いた。
「天野さんのお宅はどちらですか?」
「えと、急にお伺いするのはどうかと。今日は日曜なんで多分お父さんもいるとは思いますが。」
「私が責任を取りますから、行きましょう。」
恐神は左右に指差しながら言った。夏恋は仕方なく右側を指差し恐神と並んで歩き出した。
「歩きながら続きを。毒島さんは、天野さんは家出する理由はあると思ってますか?」
夏恋は少し考えてから、ゆっくりと首を横に振った。その様子を恐神は鋭い眼差しで観察し、足を止めた。
「毒島さん、隠さずにお話しいただかないと、正しい調査はできませんよ。何か少しでも思い当たる要素があるようなら、全てお話しください。」
すると、夏恋は少し間をおいてから口を開いた。
「…具体的には分からないんですけど、最近の流美は元気が無かったのは事実です。それに、この前のゴールデンウィークに友人たちと一緒に温泉旅行行く予定だったんですけど、前日にドタキャンしてきて。理由もハッキリ言わないし、今までそんなことする子じゃ無かったんですけど。」
「ふむ、とりあえず違和感は感じていたと。ゴールデンウィークというと先週ですか。その温泉旅行のドタキャンから数日後に行方不明…。」
恐神はブツブツ言いながらスーツの内ポケットに手を突っ込むと何かを取り出した。夏恋はその様子をじっと見ていると、取り出したのが小さな羊羹だと気付き目を丸くした。
恐神は羊羹を一口齧りながら夏恋の凝視している視線に気が付いた。
「あ、これは失礼。私、考え事する時には甘い物が必須でして。中でも最適なのが、この一口サイズのスティック羊羹なんですよ。あ、食べます?」
恐神は内ポケットからごっそりとスティック羊羹を取り出した。
「だ、大丈夫です。」
夏恋は苦笑いした。
その後、電車で1駅移動し、10分ほど歩いて天野流美の自宅前に到着した。
「いやぁ、道中色々とお話しいただきありがとうございました。ほぉ、立派な家ですね。」
恐神は大きな庭付きの家を眺めながら言った。
「…私ばっかり質問されて、恐神さんのことは何も聞けなかったな。」
夏恋はボソッと呟いた。
「では、参りましょうか。」
恐神は何も躊躇することなく、インターホンを押した。
『…はい。どちら様で?』
「私、恐神と申しまして探偵業を営んでおります。娘さんの件でお話をお聞かせ願いたいのですが。」
インターホンには応答が無く、しばらく待っていると玄関の扉が開き、流美の父親が姿を現した。そのまま数メートルのスロープを歩くと恐神たちの待つ入口の門を開けた。
「恐れ入ります。」
「探偵とは…あれ、夏恋ちゃん。君が依頼したのかい?」
「おじさん、勝手にすみません。警察がまともに動いてくれないと思って…。」
夏恋は頭を下げた。
「頭を上げてくれ。心配してくれてありがとう。どうぞ、中でお話ししましょう。」
父親は穏やかな口調で2人を自宅に案内した。
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