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玄関に入ると、その家の大きさに恐神は目を丸くした。 「素晴らしいお宅ですね。」 「まぁ、一応会社の代表を務めてましてね。この大きな家には私と流美、そして寝たきりの私の母親の3人暮らしですよ。週に何度かホームヘルパーさんに掃除をしてもらっていますが。さ、どうぞ、こちらに。」 2人は応接間に通され、革張りのソファに腰を下ろした。数分後に、父親は人数分のコーヒーを持って来て対面に座った。 「どうぞ。」 「恐れ入ります。ご挨拶遅れました、私こういう物で。」 恐神はポケットから取り出した名刺を父親に差し出した。すると、夏恋が恐神の脇腹をツンツンと指でつついた。 「ちょっと恐神さん、それ羊羹!」 「あ、これは失礼しました!えーと、あ、こちらです。」 父親は笑いながら名刺を受け取った。クールなイメージだったが、こういう一面もあるのかと夏恋はクスッと笑った。 「恐神蓮生…カッコいい名前ですね。あれ、でもこの名前どこかで…。」 父親は首を傾げた。 「よくアニメの登場人物にいそうな名前と揶揄されます。」 「ははは、なるほど。では本題に入りましょうか。娘の捜索をしていただいてるんですか?」 「えぇ、毒島さんのご依頼で本日からですが。警察は家出が濃厚だと言っているようですが、お父様としてはいかがですか?」 「…私も家出の可能性が高いのではと思ってはいます。けど、その理由が分からなくてね。」 「…理由が分からないのに家出の可能性が高いとは…矛盾を感じますが。」 恐神の声のトーンが変わり、夏恋はギョッした。 「あぁ、それはこれですよ。」 父親はスマホを取り出し、1枚の画像を恐神たちに見せた。 「実物は警察に渡してあります。」 それは、紙に書かれたメモを写した画像で、『探さないでください』とパソコンで打たれたものだった。 「これはどちらに?」 「2階の娘の部屋の机の上です。無造作に置かれていました。」 恐神はその画像を見ながら考え始めた。 「あ、あの…。」 夏恋が恐る恐る手を挙げながら発言の許可を求めると、恐神は「どうぞ。」と微笑んだ。 「素人感覚ですけど、こんな短文なのに手書きじゃないのがちょっと気になります。」 「良い視点です。お父様、娘さんの部屋にはパソコンとプリンターがあるのですか?」 「はい、娘はイラストを作成するのが趣味で数年前の誕生日に私がプレゼントしました。」 「ふむ、もしよろしければ娘さんの部屋を拝見したいのですが。」 「えぇ、構いませんよ。」 父親は立ち上がり、応接室から出ると階段に向かって廊下を歩き出した。恐神は、さり気なくも、隈なく観察をしながら歩いた。すると、気になるものを見つけて急に足を止めたため、後ろを歩いていた夏恋が恐神に顔面からぶつかった。 「鼻が…どうしたんですか?恐神さん。」 「お父様、失礼ですがあちらの部屋にあるものはワインですか?」 恐神は扉が空いたままの部屋を指差した。 「そうです。この部屋は私の書斎でして、時折ワインを嗜むこともありまして。それが何か?」 「いえ、私もワインが好きなもので。奥の棚にもワインが何本も並んでいるのを見ますと、相当なワイン好きなようで。」 「…えぇ、アルコール類の中では1番身体に合うと言うか。」 父親はそう答えると、再び階段に向かって歩き出した。恐神は、ワインボトルを鋭い眼差しで見つめた。
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