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恐神は廊下に出ると左右を見回し、ざっと扉の数が流美の部屋以外に5つあることを把握した。
…寝たきりの母親は恐らく1階にいるはず。残りの5つのうち1つはトイレだと仮定すれば部屋数は4つか。
恐神はまず1番近い扉を静かに開けた。中は物置き状態で、直ぐに扉を閉めた。
…やはり、1番奥か。
恐神は右の突き当たりにある扉を目指して静かに歩いた。耳を澄ますと、1階から父親がガタガタと作業している音が聞こえており、恐神は一気に扉の前まで移動すると、ドアノブに手を掛けた。ドアノブを捻って扉を引いたがビクともしなかった。
…鍵か。この扉だけ鍵穴があるな。
その瞬間、1階から聞こえていた作業の音がピタッと止まり、早歩きで階段に向かってくる足音が聞こえた。
…そうか、扉を引くと何か知らせがいく仕組みか。仕方ない。
階段を上ってきた父親は、廊下にいた恐神を見つけた。
「恐神さん、どうされたんですか?」
「あ、丁度良かったです。トイレをお借りしたくて。いやぁ、どの扉がトイレか分からなくて。」
笑いながら言う恐神に対し、父親は明らかに先ほどとは違う鋭い眼差しで恐神を見ていた。
「…トイレはあっちの扉です。」
「あ、真反対でしたか。大変失礼しました。お借りしても?」
「えぇ、勿論どうぞ。」
恐神は不敵な笑みを浮かべながら頭を下げてトイレの中に入っていった。
コンコン。
父親はノックをしてから流美の部屋に入ると、机の中を調べている夏恋と目が合った。
「あ、すみません、何か手掛かりがないかなって思って。」
「夏恋ちゃん、あの探偵は何者だい?」
「…どういう意味ですか?」
夏恋は作業する手を止めて立ち上がった。
「あの人の視線からは人間的なものを感じなくてね。何かとても冷徹な感じがする。」
「…私も今日会ったばかりなんで詳しくは分かりません。けど、私はあの探偵さんなら、流美を見つけてくれると思ってます。」
「…流美…流美はどうして私の前から消えたんだ。」
父親は突然涙を流した。
「おじさん…。」
「流美は私の全てだったんだ。愛していたのに、何故…。」
「…おじさん、流美は必ず見つかります。」
夏恋が父親を励ましていると、恐神が静かに部屋に戻って来た。
「毒島さん、帰りますよ。」
「え?」
夏恋はキョトンとした。
「何か手掛かりはありましたか?」
父親が問い掛けると、恐神は残念そうな表情をしながら首を横に振った。
「手掛かりというほどのものは何も。さっきお話しいただいた母親の居場所を探すことに専念したいと思います。」
「…分かりました。引き続きよろしくお願いします。」
恐神たちは、流美の家を後にし、駅に向かって歩き出した。
「…恐神さん、急にどうしたんですか?」
「確証が得れたので一旦引いただけです。」
「…確証?」
「一旦駅前の喫茶店で整理をして、再び向かいます。」
夏恋は恐神の言葉の意味が理解出来なかった。
「流美の居場所が分かったんですか?」
「えぇ、なんとなく。ただ、ご無事かどうか…。」
恐神は夏恋から目を逸らしながら答えた。
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