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 それから一週間。  毎日私にお帰りと声をかけてくれている。  さすがに私も逃げ腰で通り過ぎるのではなく、一瞬は足を止めてありがとうございますと言葉を返している。  なんだかこの、辻占さんと勝手に私が名付けた男の人が声をかけてくれるたびに、心の疲れが薄くなるような気がして、ちょっとおしゃべりしてみたいという気持ちが芽生えてきた。 ・・お給料が出たら占ってもらおうかな・・  今日もありがとうございますと頭を下げながら、三日後の給料日に決行しようと心に決めた。  だが、給料日の帰りに辻占さんはいなかった。  せっかくお金も下ろしてお釣りにならないよう両替して千円札を用意してきたのに、洋品店の前に灯りはなかった。 ・・なんだ、残念。今日はお休みなんだ。じゃあ明日だ・・  だけど翌日も辻占さんはいなかった。 ・・もうここにはこないのかなぁ、もっと早くに占ってもらえばよかった・・  人の縁とは儚いものだと、出会ったその時こそ縁を繋いでおくものだと、一つ勉強になった20代最後の夜だった。
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