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〜 千景 視点 〜
「( 犬を飼わないから…絶対に、ドッキリ仕掛けられた…。真面目に心臓に悪い…… )」
父が運営してる大手コンサルティング企業にて、
広告課の正社員として働き始めて4年目に入った。
丁度大学卒業してから4年。
結婚してかもそろそろ4年目。
この節目に、ハニーとの離婚の危機が迫ってることは察している。
「( 俺が、犬に対して嫌悪感を抱くせいで…! )」
そう、ハニーに言ってないことがある。
其れは…俺が、狼の人外だと言うこと。
「( ハニーが好きなのは…バーニーズ・マウンテン・ドッグやグレート・ピレニーズ等のふわふわ垂れ耳ワンコ。それに比べて俺は…ゴワゴワ立ち耳の厳つい狼…。絶対……" なんか、違う… "とかショックを受けるに違いない )」
何気無く似たようなハスキーやらシェパード等の犬が出る番組を見せた事があるが、犬に食いつくはずの様子が全く無かった。
それなのに…散歩中でふわふわワンコが通り掛かったら、俺と繋いでる手を振り払ってまで…
其の飼い主に挨拶してから触ってるのだから…。
「( あれを見たら…言えるわけ無いだろ…… )」
「 今日の千景先輩……いつにも増して怖いっすね? 」
「 奥さんと何かあったんだろ……触らぬ神に祟り無しって言うだろ…。そっとしとこう… 」
前に行った柴犬カフェは、近所にそれしか無かっただけで、彼女が地味に諦めたのは知ってる。
本当は大型犬カフェに行ってふわもこを触りたかったらしいが、予約がいっぱいで俺の休みの日と被らなくて入れなかったとか…。
それもあり、柴犬カフェだが……。
「( 柴犬はいい。なんだあのずんぐりとした体型に丸みを帯びた尻尾や目!!ペットにしたい愛犬ランキング1位なのは納得できる。だが…狼に似たサーロス・ウルフホンドですら去年は68位とかだぞ…。じゃ…狼はどうだ…。考えただけで終わってる )」
保護犬でも良いと言うが、
折角なら…ハニーが好きな犬種を飼ってやるのも愛情だろう。
「( 奥歯噛み締めながら…ハニーとワンコが戯れるのを見てないといけないのか…拷問だが、ハニーの笑顔が見れるなら…… )」
「 ねぇ、新しいペットショップ出来たの聞いた?今、犬種だけで52種類いるんだよ!凄いよね 」
「 知ってる知ってる。ここから近いよねー。近々行く予定。ペット用品も多いのにネット価格ぐらい安くてさ。もう小さい店にはいけないよね 」
「 わかる。ある程度の物なら、もうそこでいいよねー 」
社員の言葉に、ピクリと耳が反応する。
「( 大型ペットショップ?そう言えば…そこがオープンする話は聞いてたな。広告も随分前に作った気が…嫌すぎて他の奴に押し付けたが… )」
何故俺が、ラブリーに写真を撮られた犬達の写真を一枚一枚確認して、
尚且つ良さげなのをピックアップして、広告を作らなきゃいけないのか分からなかった。
だからやらなかった為に、正確な日付迄も覚えてなかったが…。
「( ハニーが好きな犬種を、知るきっかけでもあるし…4年目の結婚記念日に犬でも贈れば……くっ……。絶対に嫉妬で犬を噛み殺しそうだ… )」
頭を撫でられて尻尾を振る様子を見て、俺がどれだけ日頃我慢してるか。
格好いい美形と言われてる旦那が、バンバン尻尾振ってたら百年の恋も冷めるだろう。
「( 今朝だって……頭撫でられかけた時はやばかった…。理性が死んだ… )」
小さくて優しい手で、頭を撫でてくるあの感覚は…
ほんの一瞬でも心を弾ませるものがある。
それを…どこぞの馬の骨とも分からん奴に、
これから毎日毎日毎日…触れてるのを見るって…。
俺には耐えれないだろう。
「 はぁー……くそ……( 俺だって、撫で回されてぇよ…! )」
「「(( やばい、先輩がいつにも増してキレてる…怖っ… ))」
手元にあった書類をぐしゃっと握り締め、ゴミとなった其れをゴミ箱に投げ入れ、もう一度画面へと視線を向ける。
「( 離婚して欲しいと言われる前に……飼うしかないのだろうか…… )」
俺の姿を見せたことは…過去に一度だけあった。
其れは、俺が下校中に交通事故した時の事だった。
" おまえさー、涼海の事好きだろ "
" ……は?な、なわけ…ないし! "
" いや、バレバレだって。彼奴可愛いし、結構狙ってるやつ多いもんな "
不意に同級の奴から、好きな子についての話をされて戸惑って…。
尚且つ、彼氏がいる事を知ってたから…
それを敢えて言われた苛立ちも混ざって、後先も考えずその場を逃げたんだ。
逃げた先で、左右の確認をミスったせいで事故にあった。
余りの衝撃で、一瞬で狼になってしまったし、意識が朦朧としてる際に助けられた事で言うに言えなくなった。
" ワンちゃん…大丈夫?早く元気になってね "
" ……………わふ… "
好きな子の為に犬のフリをした。
狼とは言えど、多少妖怪の血が混じってるから、
3日後にはバキバキに折れてた体中の骨すら治っていたのに、痛がるふりをして…。
そのせいで、貧乏な家庭だと知ってたのに動物病院の診療費すら何度も払わせてしまった。
それなのに…彼女と父親は、健気に元気になる事を願ってくれていたんだ。
「( あんなの見たら…惚れてまうやろ…… )」
一緒の布団で寝て、風呂に入って、食事をして。
元気になって来たら散歩に行って…。
笑顔の彼女を独占出来たと思ったのに、彼女にはクソ不細工なゲーム優先するようなゲームヲタクの彼氏がいた。
なら、人間としての俺がそいつを蹴散らして…
アピールするしか無いと思ったんだ。
その彼氏より顔が良い、体型もいい、頭も良ければ、将来有望でもある。
そんな優良物件であるのに…落とすのに時間かかった。
「( 他の男ならころっと付き合ってたくせに…俺だけは拒んでた理由あまり分からないが…まぁ今は俺のマイスウィートなのだからいい…が…マジで犬…どうしよう )」
取り敢えず、今日は出来るだけ爆速で帰ってペットショップに行きたいか、聞こう……。
結婚記念日に犬見る為にペットショップってなんだよ……。
ぜてぇ嫌だ………。
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