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砂塵が晴れていく。レンが、絶望の呻きを上げた。
「なんで、キリト!お前が、そんなもん持ってんだよ……!」
姿を現したのは、肩にランチャーを担いだキリトだった。
しかし、彼はまだ小学生相当の子供である。他の子供達と比較してもけして大柄でない彼に、本来そのような武器、持ち上げることさえままならなかったはず。
それができた原因はすぐに分かった。キリトの右腕だけが、恐ろしく肥大化しているのである。筋肉が膨張し、小さな子供の体に筋骨隆々の巨人の腕がくっついているといういびつな形状と化していた。
あれは、マリーベルと同じ。朝葉は呻くしかない。
やはり神々は、ここで手を下してきたのかと。
「あたし達の予選でもあったんだ。突然おかしくなって、魔族たちを攻撃してきた奴が」
朝葉はただ低く、呟くしかない。
「くそ、よりによってキリトかよ……!神様には、マジで人の心がないってのか……!」
『でも、僕は、まちがってるっておもう。だって、おかしいです。ニンゲンをころしたわけじゃないまぞくまでなんで、ひとごろしって、いじめられなきゃいけないのかわかんないです。町のひと、まぞくだってだけで、ほんと、まぞくのひとにいやなことするから……』
出会ったばかりの、四歳の頃のキリトの言葉だ。
彼はあんなに小さい頃から、自分の意思をきちんと持っていた。過去の戦争のせいで、実際に人を殺してもいない魔族が虐げられるのは間違っていると。
戦争をせずに互いに分かり合えるならそれが一番いいとレンの意見にも賛成していた。それなおのに。
「ウウウウウウウウウウ、ウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!」
少年は、目をギラギラと血走らせて朝葉とレンを見回す。
「殺ス、シナリオの邪魔をする奴ハ、みんな、殺ス。殺ス、殺す、ころ、ころ、コロス、う、ウウウウウウウウウウウウウウウウ!」
「キリト、落ち着け!自分を取り戻してくれよ、なあ!!」
レンが叫んで、キリトに駆け寄ろうとした。
「だ、駄目だレン!うかつに近づいたら……!」
遅かった。
もはやキリトに、敵と味方の区別はついていない。
人体など容易く粉々にできるであろう武器を、まっすぐにレンに向ける。そして。
「コロ、ス」
「やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
この距離では、間に合わない、引き金が引かれる。引かれてしまう、その瞬間。
「レン!!」
キリトとレンの間に、ジーンが飛び出してきたのだ。
その目に強い、覚悟の光を宿して。
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