<31・夜明。>

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<31・夜明。>

『ジーンへ。  手紙、返事が遅くなってごめんな。本当はこまめに書きたかったんだけど、正直余裕なくて書けなかった。  ああ、もう、本当に、どうすればいいんだろうな。  ダレのせいなのかはわからないけど、これだけは言える。誰かが、争いを望んでるってこと。誰かが、俺たちを殺し合わせたくて仕方ないってこと。  そいつはきっと、俺たちなんか想像もつかないような存在なんだろうってこと。……魔法が使える奴も協力してくれたけど、それでも犯人がわからなかったんだから、きっとそういうことなんだろう。  アメジスト・バトルの練習中、おかしくなる奴が増えた。  ヒューマニア領土に住んでいて人間サイドに協力してくれる魔族も何人かはいて、アメジスト・バトルの練習にも付き合ってくれたんだけど。  魔族も人間も問わず、なんだ。時々、妙に攻撃的になっておかしくなるやつがいる。  戦争をするべきだ、魔族と人間は殺し合うべきだ、けして相容れない存在なんだ永遠に争うしかないんだって言い始めるんだ。こんな生ぬるい手段で未来を決めるなんて狂ってる、とか。中にはもっとひどい、罵詈雑言を吐き始める奴もいる。そう言う奴を止めようとすると、武器を持って攻撃してきたり、無作為に暴れたりもしてくるんだ。  チームのメンバーもおかしくなる奴が多発した。俺のチームの奴らも、俺以外全員一度が発症してる。でもって、正気に戻ると、おかしくなってた時の記憶が綺麗にすっ飛んでるんだ。  実はうちのメンバー、それで何度か交代を余儀なくされてる。おかしくなった時に筋肉が膨張して、断裂して、とてもじゃないけど試合どころじゃなくなった奴も多かったからな。  チコとかキリトとか、補欠だった奴は繰り上がったのはそのためなんだ。  ひょっとして、同じ現象はジーンのところでも起きてるんだろうか?  これは、誰かの意志なんだろうか?  俺達はただ正々堂々と戦いたいだけなのに、それを許さない奴がいるとでも?試合をめちゃくちゃにして、傷つけ合わせたい奴がいるとでも?  もし本番で同じことが起きたら。もしそれで、ヒューマニアの誰かがマジカルの誰かを死なせるようなことでもあったら……!  冗談じゃねえ。  そんなのが俺たちの運命だなんて、誰が認めてやるものか。  だから、俺は……俺は、誰かがそういうことを願っていると仮定して、親父に頼んだんだ。  次におかしくなるのは、俺かもしれない。別の誰かかもしれない。  もしそれで俺が殺されるようなことがあっても、どうか、どうか戦争だけにはしてくれるなって。それは、誰かが望んだクソッタレなシナリオでしかないって。  だから、ジーン。お前にも頼みがある。  もし俺が自分を失って暴走して、お前らを殺そうとしたら、その時は。  どうか、俺を殺してくれ。  殺してでもどうか、どうか――悲劇を、止めてくれ。  レンより』
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