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試合のルール上。
アメジスト・バトルでは広場エリアに、ショートポジションの人間が入ることは許されない。だから本来、キリトが入ってきてしまった時点で彼は失格だし、それはジーンも同じである。
同時に、ジーンは“teleport”の魔法だけを登録している。それ以外の魔法をここで使うのはルール違反とのある。まあ、遠隔武器を持ち込めないはずのキリトが、何故か巨大なランチャーを持って殺意を持って攻撃してきている時点で今更と言えば今更なのだが。
「“Barrier”!」
ジーンはレンを突き飛ばして前に出ると、防御魔法を唱えた。彼なりに、全身全霊をこめた魔法だったことだろう。
しかし、至近距離からの対戦車ランチャーの攻撃。四本の銛全てを完全に防ぐのは、ほぼ不可能だと言っていい。
だから。
「あ、ああ」
鮮血が、舞った。
銛の一本がジーンの右足に突き刺さり、もう一本が彼の腹を深々と抉っていったがために。
「あ、あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
絶叫。
朝葉は叫びながら、必死でキリトに襲いかかっていた。あのランチャーは、一発撃つと二発目までに時間がかかる。砲身が熱を持ち、冷えるまで少しタイムラグがあるがゆえに。
まだ灼熱の砲身を掴み、掌が焼けるのも構わず強引に少年から取り上げた。そして彼を突き飛ばし、クナイを魔法で強化して武器に何度も突き刺す。
バキバキバキバキ、と音を立てて砕けるランチャー。つきとばされた衝撃でキリトは意識を失ったのか、そのまま倒れてしまっている。しゅうううう、と音を立てて、肥大化していた彼の右腕が戻っていくのが見えた。上級神の呪縛が解かれたのだろうか。
いや、今は、それよりも。
「ジーン!いやだ、ジーン、ジーン!!」
レンが泣き叫ぶ声がする。朝葉もまた、彼等の元に駆け寄った。
「あ、ああああ……っ!」
そこは、もはや一面血の海と化している。
ジーンの右足は膝のあたりが砕け、ほとんどちぎれかかっている状態。
腹には大穴があいていて、肋骨の一部さえ覗いていた。このままでは死ぬ。確実に死んでしまう。魔法で助けなければと思うが、朝葉は魔法が極端に苦手だった。ましてや回復魔法など、ろくに成功したこともない。それはレンも同じだろう。
そして魔法が使えそうな他の者達はみんな退場して会場の外にいるか、あるいはそこで気絶してしまっているわけで。
「……れ、ん……」
ジーンは仰向けで血を吐きながら、それでも言葉を発した。
「……無事、か」
「無事だよ畜生!なんでだよなんでお前が俺を庇ってんだよ!むしろ、俺が暴れたら殺してくれって頼んでただろうがよ!!」
「え!?」
それはどういうことだ、と朝葉は目を見開く。だが、今はそれを説明する余裕などなさそうだ。
ジーンは息も絶え絶えで、それでも笑っている。あまりにも満足そうな顔に、腹が立って仕方なかった。
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