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かつて、誰かが言っていた。
心一つで、世界は変わらない。
されど時に世界を変えるのが人の意思であるのもまた事実なのだ、と。
「エイプリル……」
朝葉はレンから貰った手紙をそっと畳んで、封筒に戻した。自分は、所詮ただの魔王の養女に過ぎない。神様の意思の全てを、図りきることなどできない。
それでも、一つだけわかっていることがある。
命を賭けて戦ったのは、そう決意したのは、自分達だけではなかったということを。
「ジーン、入るぞ」
朝葉は朝日が昇る窓に背を向けて、ジーンの部屋のドアをノックした。そして、相手の返事が聞こえるよりも前にさっさとドアを開ける。
ベッドの脇。車いすに乗ったジーンが、膝に手紙を乗せて読んでいた。どうやら、レンから手紙が届いていたのは自分だけではなかったようだ。
「レンからの手紙か?」
「ああ、そうだ」
ジーンは頷くと、そのまま車いすを自分の机の前まで移動させる。車いす生活になってから一か月。操作にも随分慣れた様子だった。
ちぎれかけていた足は奇跡的に繋がったし、リハビリも順調だと聞いている。歩けるようになるまで、もう少し時間はかかるだろうけれど。
「返事を書く。……朝葉から聞いた話。やはり、レンにも全部伝えるべきだと思うから」
彼はペンを手に取り、朝葉をちらりと振り返った。
「この世界の神は、本当に私達を愛してくれていた。……それは、人間達にも、皆にも知らされるべきだろう。彼女のおかげで私は生き延び、アサハに出会えて、それから……勇者と魔王が手を取り合い、新しい朝を歩き始めたのだから」
「……ああ」
レンからも、それから魔王からも全て聞かされている。
自分達の試合は中止になってしまったけれど、それでもあの試合と、レンとジーンの姿は皆の心を動かしたということを。
勝敗などつかなくても、彼等は共に手を取り合うことを選べた。――もしジーンがあのまま死んでしまっていたら、そうはならなかったかもしれない。
――……エイプリル。
彼女の声はもう、聞こえない。
神の力でジーンを助けた代償に、彼女が神としてどのような運命をたどったかは、もはや朝葉には知る由もない。でも、もし既に彼女がこの世のどこにもいないとしても――きっと人の心を持った神のまま、笑って消えていったのではないかと思うのだ。
そうあってほしい。
そのためにも、自分は生きなければいけないのである。新しい夜明けを、大好きな人と共に。
「体治ったら、また“鬼ごっこ”しような」
朝葉はそっと、ジーンを後ろから抱きしめて告げる。
「そう、今度また……レンたちとも一緒にさ」
ヒーローたちの未来に、幸あれ。
何処にもないハッピーエンドはこれから、自分達の手で作っていくものなのだから。
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