<2・喧嘩。>

1/4
前へ
/126ページ
次へ

<2・喧嘩。>

 この世界は、厳密には朝葉が好きな“エイプリルの咆哮”とはパラレルワールドの世界である。  が、恐らく大筋のシナリオは変わらないものと思われるので、ひとまず例のラノベについておさらいしておくものとしよう。  エイプリルの咆哮のエイプリル、とはその世界を収める女神様の名前である。なんで女神様が吠えてんの?というと一番最後に女神様が声を上げて泣くシーンがあるから、らしい。確かに、この物語は結構悲劇的な結末を迎えるので、それが賛否両輪呼んでいたのは事実である。  この物語は、ダブル主人公に近い形式で話が進む。  一人目の主人公は、かつて魔王から世界を救った勇者であり英雄、ジョナスの息子であるレン。  この世界は昔から人間達と魔族達の間で小競り合いが耐えず、かつて第一次勇魔大戦と呼ばれる戦争が勃発した。その時、勇者ジョナス率いる人間軍が最終的に魔王軍を倒し、魔族を辺境の土地に追いやったという経緯があるのだ。その禍根は現在に至るまで続き、息子世代で再び第二次勇魔大戦が始まってしまう――というのが、この物語の流れである。  茶色の髪に茶色の目、父と同じく剣士を志すレンは正義感にあふれた少年だ。幼い頃からこの世界を守ることを期待され、それがみんなのためになると信じてきた人物である。そう、彼がもしそのまま成長したのであれば、父と同じ道を歩んだことだろう――幼い頃、もう一人の主人公である魔王の息子、ジーンとひょんなことから親しくなっていなければ。  もう一人の主人公は、魔王と呼ばれた男、コンラッドの息子である魔族の少年ジーン。父譲りの銀髪と魔力、母譲りの青眼と美貌を引き継いだレンとはまったくタイプの異なるクールな少年だ。彼もまた静かな闘志を抱いており、いずれ魔王の座を引き継いで人間界に居場所を取り戻すためのリーダーとなることを熱望されていた。そう、もしも人間界の偵察に行った時、何も知らずにレンと友達になっていなければ、悲劇は悲劇にならなかったのかもしれない。  彼等が親友と呼ばれる仲となってから暫くの後、ついに第二次勇魔大戦に至ってしまう。しかも、そのさなかで二人は、お互いが殺さなければいけない宿敵であったことを知ってしまうのだ。  苦悩しながらも、使命を果たすしかなくなる二人。最終的にはレンがその剣でジーンの胸を貫き、泣きながらその骸を掻き抱いてエンディングとなるのである。少年達はけして殺し合いなどしたくなかった。ただ運命が皮肉であったがゆえ、それを望まれてしまったがゆえにそうなったというだけで。 ――だから……ジーン救済ルートはないの?とか。二人がずっと友達でいられる未来はなかったの?って結構議論が勃発したんだよなあ。  朝葉はしみじみ思う。
/126ページ

最初のコメントを投稿しよう!

22人が本棚に入れています
本棚に追加