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「ここに、来たくて来たやつはいないと思ってる。こじいんがいいところだったんじゃなくて、自分が、ひつようだからここに来たと思ってないから。……わたしのよびとか、わたしのふみだいにされるためにここに来たって思ってる。じっさい、そう言ってた。自分達が、きたいされてるわけじゃないって」
「!」
なんと、と朝葉は目を見開いた。
実際、魔王たちの意図はそこだっただろう。あくまで、息子の成長のために子供達を引き取ったにすぎず、彼等を息子と同列に扱うつもりがないのは目に見えている。もちろんそんなこと大人は言わなかっただろうが、聡い子供達は薄々悟ってしまっているというわけだ。
「それで、わたしがケンカを止めようとしたら、もっとこじれる。どっちかに味方したら、“いこん”をのこす。だって、かれらはわたしにはつよいことが言えない。そんなわたしが、みんなをムリにとめて、モヤモヤしているのにケンカをやめろなんて言うのはひきょうだ。だから、みんながじぶんでかいけつするのをまつしかないと思った」
驚いた。まだ四歳くらいのジーンが、そこまで冷静に子供達の様子を見ていようとは。そして、自分の立場を、皆が自分に対してどう思っているのかを理解していようとは。
確かに、ジーンは魔王の血を直接引き継いだ息子であり、子供達も遠慮しなければならない存在。戦争で魔族を率いて戦った魔族の英雄・コンラッドの名前は子供達でさえ知るところだろう(様々な絵本にもなっているから尚更に)。そんな人間に理屈を押し付けられたら、不満があっても文句が言えない。それは、とてもずるいことだとジーンは幼いながら理解しているのだ。
聡明ゆえの、傍観。だが。
「じゃあ、お前、このままでいいとおもってるのか」
朝葉としては、どうしても腑に落ちない。
「まおうさまは、お前とあたしたちがかぞくになってほしいんじゃないのか。おまえは、かぞくやともだちがほしくねーのか」
「ほしくないわけじゃない。でも、どう転んでも、ほんもののかぞくになんて……」
「まだいっしゅうかんしか過ぎてねえよ。あきらめるのははやすぎるだろ。おまえ、つぎのまおうさまになるんじゃないのかよ」
四歳の子に、酷なことを言っているのはわかっている。でも、ここで人に気を使ってばかりで、言いたいことも言えない人間になってしまうのは違うのではないか。
「……まあ、いいさ」
困惑するジーンに、朝葉は言った。
「こんかいは、あたしがお手本をみせてやる。みてろよな、ジーン!」
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