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<1・何故。>
人間、死ぬ時はあっさり死ぬものである。
一倉朝葉は、あっさりその運命を受け入れた。さほど長生きしたわけではない。十八歳、まだまだ人生は長かったことだろう。それでもいいやと思えたのは、やりたいことを好きなようにやれて、短いながらも人生に大いに満足したからである。
正直、最後の最後で、チームのみんなや家族を悲しませてしまったことだけは申し訳ないと思ったが。
「えっと」
真っ暗闇の空間。朝葉は頭をぽりぽりと書きながら、目の前の女性に尋ねた。
「一体これどういう状況だ?あたしゃどうなったんだ?」
目の前には、ふよふよと浮いている金髪にセクシーな白いドレスを纏った女性。男性向けRPGに出てきそうなキャラだなあ、とか乳が無駄にでけえなあ、とぼんやり思う。残念ながらあんまり教養のあるキャラではない自覚があるので、そういうしょうもない感想しか出てこない。高校の世界史の授業なんていっつも寝ていたし。
「初めまして、一倉朝葉さん」
女性はぺこり、と頭を下げて言った。
「突然ですが、貴女は死にました。それは理解されてます?」
「ああ、うん。なんか崩れてきた鋼材の下敷きになったっぽいだろ。……あ、あたしのチームのみんなは無事だろうな!?」
「大丈夫です。貴女以外の者達は軽傷で済んでます」
「それならいい」
朝葉は、レディースチーム“焔”のリーダーだった。
この令和のご時世になんでヤンキーのチームがあるの?なんてツッコミしてはいけない。時代が平成初期で止まっているような田舎町、未だに時代錯誤と言われるような化石のようなヤンキーがちらほらいるようなところだったのだ。
別にヤンキーになりたかったわけじゃない朝葉も、パシられてていたクラスメートを助けていたら、いつの間にかチームのリーダーに担ぎ上げられていたという流れである。元々遺伝的に体が大きくて、中学まで実戦空手をやっていて喧嘩が強かったというそれだけのことなのだが。
親には心配かけただろう。でも、あくまで朝葉は、アホな連中に苦しめられる弱者を助ける組織を作りたかっただけである。一応レディースのチームであったが、男女問わず弱者の味方を気取っていたつもりだった。
「えっと、あたしラノベとか少しは読むんだけどよ」
女性を指さして、朝葉は言う。
「ひょっとして、あんた異世界の女神様とかそういう?あたしに異世界転生しろとかそういう?」
「話が早くて助かります」
「マジかよ。ええ、そういうの興味ねーんだけど……」
ため息交じりに言う朝葉。そういうのは、元の世界に不満があるとか、夢と希望に溢れた異世界転移・転生を望んでいるような人をスカウトしてほしいものである。
確かに自分は死んでしまったようなので、一倉朝葉として元の世界に戻るのは不可能かもしれない。が、それはそれとして朝葉は元の地球が、日本が、故郷の町が大好きなのだ。生まれ変わるなら次の普通の日本人でいたいと、心底そう思っていたのだが。
「申し訳ありません。ですが、貴女であるべきとそう思ったのです。貴女は喧嘩も強いですし、メンタルも強そうですし、それに……」
女神はあっさり言ってのけた。
「貴女、“エイプリルの咆哮”のファンですよね?」
「……わっつ?」
まてまてまてまて。
何やら雲行きが怪しくなってきた話に、朝葉はマテをかけたのだった。
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