冬(円歌編)

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冬(円歌編)

 年末。大晦日の夜。去年はお互い実家に帰って年越しをしたけれど、今年は一緒に過ごすことになった。特に何か予定があるわけではないから、ただただのんびりと二人で過ごしていた。寧音がいるアメリカはまだお昼らしい。いつもは意識しないけれど、年が明けるタイミングが違うというのは何となく不思議な感覚がする。 「お蕎麦できたよ~」 「ありがとう」  葵は蕎麦が好きだから年末には年越し蕎麦を食べる。私はパスタの方が好きだけれど、今日だけは付き合ってあげる。ちなみに麺類なら晴琉はラーメンが大好きで、寧音はフォーが好き。四人で食事に行く時はそれぞれが行きたいお店を順番に巡っている。 「春休みどうする?」  葵は私が少食だから二人前を茹でて少なめによそってくれて、その分多めに食べてくれている。最近の話題は専ら、これから訪れる春休みのことだった。年末年始は何だかんだバイトに大学の課題と忙しく、クリスマスにデートはしたものの近場で済ませていた。海外旅行に行きたいという話も出ていたけれど、実現できずにいたのだった。 「んー……旅行も良いけど、春休みじゃ混むからなぁ」 「観光地はどこだって混んでるよ」  お互い人混みが得意なわけでもないから、ゆっくりできるところが良いと思っていた。大学生になって一緒にいる時間が増えて、色んなところに出かけるようになった。最近は二人でゆっくり過ごせる家が良いよね、という結果に落ち着きかけている。 「あぁでも昔行った温泉は良かったな。また行きたい」 「葵そんなに温泉好きだった?」 「積極的な円歌が見れて最高だった」  危うく蕎麦でむせるところだった。食事中に何を言っているのか。思いっきり睨みつけるけれど、葵は全然気にしていない。美味しそうに蕎麦をすすっている。 「……別に温泉だからってわけじゃ」 「じゃあ今日も見られるかなぁ?」 「葵……年々変態になってない?」 「円歌がかわいいせいでしょ」 「人のせいにしないで」  一緒に暮らし始めた頃は付き合い始めた高校生の頃に比べて毎日のように体を求められていた。今はそれなりに落ち着いて、まぁ丁度良いなってくらいの頻度になっている。全く求められないよりはマシだけれど、最近の行為中の葵には前よりも余裕を感じられるようになって、少し不満に思っている。私だけが未だに余裕がないみたいだからだ。 「今日はお風呂一緒に入る?」 「何されるか分かんないからヤダ」 「えぇ?何ってなぁに?」 「はいはい。ごちそうさまでした!」  のぼせるギリギリまで何をされるか。さっさと話を切り上げた。皿洗いをして、順番にお風呂に入ってすぐに寝られる準備まで終えた。後はもう、本当にのんびり過ごすだけ。先にお風呂から上がっていた葵は一日中点けっぱなしのパソコンの前に座り、何やらずっと何か配信を見ているようだった。 「もうすぐ今年終わるよ」 「早いねぇ」 「葵、お年寄りみたい」 「たぶんずっと言い続けるだろうね」 「……私の隣で?」  私の言葉に葵はパソコンの画面から視線を外すと、しっかりと私の目をみて告げた。 「もちろんそのつもりだよ」 「……そっか」 「うん……って円歌、何して……」  戸惑う葵を無視して私は葵の膝の上に跨るようにして椅子に座った。一人用の椅子がきしむ。葵を見下ろす角度からキスをした。葵より身長が低い私は背伸びをしないと自分からキスが出来ないし、ベッドではほとんど葵の方が私に覆いかぶさってキスをしてくるから、こうして私が葵を見下ろす形でキスをするのは新鮮だった。 「急にどうしたの?」 「……積極的なのが好きなんでしょ?」 「……うん」  私の言葉に葵は満足そうに微笑んでいた。私の方からキスをしているのに、葵は暇を持て余した両手で私の体をまさぐってくるから、私ばかり息が上がっていく。 「キス、止まってるよ?ほら頑張って」 「はぁ……じゃあ、触らないでよ……」 「円歌が反応しなければいいんじゃない?」 「……意地悪」 「ごめん……てかさ、ブラ、新しいやつ?……もしかして最初から誘うつもりだった?」  私の着てるシャツを雑にたくし上げて、ホックを外す前に葵の手が止まっていた。胸元にキスをして、嬉しそうに私に問いかける。 「そうだよ……葵に、見てもらいたくて……」 「葵の為?」 「うん……喜んで欲しくて、買ったの」 「円歌……ありがと……ね、ちゃんと見たいから、ベッド行こう?」 「……ん」  それからベッドへ移動して、葵を押し倒すようにして覆いかぶさった。服はあっという間に葵の手によって脱がされて、下着姿になる。 「こういうの、嬉しい?」 「んー?……下着のこと?それとも円歌からキスしてくれること?」 「どっちも」 「……どっちも嬉しいけど……でも本当にどうしたの?何かあった?」 「葵が、物足りなくなったら、嫌なの……私に飽きたりしたら――」  首に腕を回されて思いっきり引き寄せられたから、言葉は最後まで言えなかった。身動きが取れないくらいに強く抱きしめられる。 「葵?」 「飽きるとか、そういうことじゃないから……ごめん、もしかして最近適当にしてると思ってた?」 「そんなことけど……ただ、なんか……葵、最近余裕ある感じ出してくるから……そのうち飽きたりしたらどうしようって、思って……」 「あぁ、そういうことね……」  葵が私を抱きしめている力を緩めたから、体を起こして葵と見つめ合う。少し言い辛そうな雰囲気を出しながら、葵は話し始めた。 「あのね円歌……余裕がある訳じゃなくて、ただ、いつまでもがっついてる感じだとダサいかなって思って……余裕があるフリしてただけで」 「え?」 「引っ越してきたばかりの頃とか、さすがにやり過ぎてたと思うし……反省してて……」 「やめてよ……葵、感情隠すの上手なんだから」 「ごめん」 「それに葵の余裕のない顔、好きだから……ちゃんと見せて?」 「そう言われるとなんか恥ずかしいんだけど……やっぱり葵って余裕ない?」 「なくていい。私だけ余裕ないのヤダ。ずるい」 「ずるいって何それ」  葵は笑い出していた。ちょっとムカついたから葵の耳を軽く噛んでやった。 「痛い痛い。ごめんってば……」 「謝る暇あるなら早く手、出してよ」  葵の手を取って自分の胸に押し当てると、葵の目の色が変わった。 「えぇ?ちょっと、もう……あんまり煽らないでよ」  それから葵に食べ尽くされるように体中に触れられて――。 「あ、もう0時過ぎてた」 「えぇー。葵のせいだ」 「円歌が『もっと』って強請ってくるからじゃん」 「葵が焦らしたせいだよ」 「えぇ?……まぁいいけどさ。今年もよろしくね、円歌」 「うん」 「じゃあ続きしよっか」 「え⁉もういい……葵っ!」 
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