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いつのまにか底なし沼
彼女はいつだってキラキラしていた。
一人の少女を見つめて甘い顔をするのは、美丈夫といえる部類の男。茶髪の髪を軽く後ろに結べる程度の長さに切り揃え、優しげな二重の茶色の瞳と綺麗に整えられた眉。少し高めの鼻とシャープな顎のラインが、彼の甘いマスクとマッチしている。名前は翔。19歳の青年だ。
そんな翔の視線の先にいるのは、彼より2つ年下の女の子。
その鮮やかな黒髪にキリッとした黒目がよく似合う凛とした彼女の名前は玲。
玲との縁は以前に翔が所属しているチームのボスの命令で玲を捕まえたところから始まる。彼女に危害を加えるつもりは毛頭なく、監視兼お世話という形で接していた。といっても、ほんの数時間の短い間だけ。
そこから街で会えば世間話をする程度の仲にはなり、翔は自分でいうのもなんだが彼女に信頼されているなと感じていた。
まあそれもそうだろうなと翔自身も納得している。玲に対して常にフラットに接し、玲の意に反することを一切しないから。
しかし、翔が彼女に抱く想いを表に出すことは一切なかった。
だって自分は彼女にとってはただの違うチームの不良でしかないのだ。そんな翔が玲のことを好きだなんて言ったらきっと彼女は困ってしまうだろう。だからこの想いはそっと胸の奥にしまっておくのだ。
そんな翔の想いに玲は気づいているのかいないのか、彼女は今日もまた、キラキラとした笑顔を彼に向けているのだった。
「あ、翔!」
名を呼ばれて振り向けば、駆けてくる玲の姿がそこにあった。こんな風に自分を見つけて近づいてきてくれる嬉しさに顔がニヤけそうになるのを堪えつつ、翔は通常通りの甘いマスクで「やあ、玲ちゃん。今日も可愛いね」と口にする。
「お、おう……恥ずかしいからそーいうこと言うのはやめろって言ってるだろ」
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