いつのまにか底なし沼

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 玲は翔の褒め言葉に照れて顔を顰めていた。普段の言動から男っぽい玲は、女の子扱いされるのにとても抵抗がある。だから翔のように、顔を合わせる度に褒めてくるタイプは玲の中では合わない人種だった。しかし不思議なことに、それでも翔とはなんだかんだいってよく話をしている。 「だって可愛いからねー。玲ちゃんも素直に受け取ればいいのに」 「おまえが言うとなんか軽く聞こえるから、余計に腹が立つ」 「えー心外だなぁ。本心だよ」 「はっ、どーだか」  口の端を上げて笑う玲に翔は笑みを絶やさず、玲はそんな翔を見ては溜息をつく。 「じゃあ、そろそろ行くから」 「あ、うん。またね、玲ちゃん」  そして別れ際になると、翔は必ず玲に笑顔で手を振るのだった。そうして今日も今日とていつも通りに別れる。こんな風に軽くでしか気持ちを吐露することができないのは、翔自身が臆病だからか。  自分でもわかる。玲のことを密かに思ってることは明白なのに。その想いを届けたいなんて、思ってしまえば沼るから、口にしないだけ。  ぬかるみに足を滑らせたら、もう抜け出せないから。ギリギリのラインで、君を見つめる。  俺ってこんな面倒くさい性格だったんだなと翔は、新たな自分の一面を発見して驚いた。それも「へぇ、俺ってこんななのかー」と他人事のような程度のものなのだが。 *** 「あれ、翔。また会ったな」 「ほんと。偶然だねぇ」  別の日。街で翔はまた玲と再会する。人通りも多いところでお互いよく気づくよなと玲は驚いていたが、翔としては気づかないわけがなかった。だって、常に玲がいないか気にかけているから。  もしかしたら会えるかも。もしかしたら話せるかも。もしかしたら笑ってくれるかも。そんな淡い期待を込めて、街を歩いている。 「玲ちゃんっていつもこの道通ってるの?」
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