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「まあな。学校に行くにはこっちの道がいいんだよ」
「あーそっかー」
こんな些細な会話でも嬉しいものだから、やっぱり自分は玲に心底惚れてるんだなと翔は自覚する。自覚したところで想いを告げる気なんてさらさらないのだけれど。
そして今日もまた、翔は別れ際に玲を褒め称えるのだ。
「可愛い玲ちゃん。またね」
「……だから、やめろって」
「えー?」
「えーじゃない。ったく、他の奴が聞いたら笑われるぞ」
「笑う要素なんかないと思うけどね」
「おまえ本当……もういいわ」
何を返してものらりくらりな翔の言葉に玲は呆れて、軽く手を振りながら去って行く。その後姿をいつまでも見つめながら翔は心の中で呟いた。
ーーああ、やっぱり届かないなぁ。でも、その方が都合がいいし。ズブズブに抜け出せなくなる前に、線引きしないとね。
玲のいなくなったその場所で、翔はひとり寂しく願っているのだった。
***
それからまた後日。その日も玲と翔は偶然出会い街を歩いていたのだが、そこでふたりに声をかけてきた者がいた。それはいかにも不良な出立ちをした四人組だった。
「ねえねえそこの彼女ー」
「え?私?」
「そうそう!可愛いねー!」
「……なんだこいつら……」
そんな4人組に玲は眉根を寄せる。隣にいた翔は笑みを浮かべて、玲の様子を見守る。予想通りに声をかけてきた男達に不機嫌を表す玲。そういう強気な態度が好きな輩もいるのになーなんて呑気に考えていると、やはりというか相手は玲の手を掴む。
「こーいう強気な子めっちゃタイプ」
「お前泣かせたいだけだろ」
「さいってー」
ぎゃははははと品のない笑い声に玲が顔を顰めて、掴まれていた手を振り払う。
「気安く触るな」
「は?」
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