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「今日も気分は優れない?」
「うん……」
不登校三日目の朝、お母さんが部屋に様子を見に来た。お父さんもお母さんも駿太の家で何があったか知っている。私が不登校になった原因も気付いているだろう。気付いているからこそ突然不登校になった私を責めたりしなかった。
「駿太くんに会わなくていいの?」
「……いいの」
「本当に美奈は気を遣いすぎじゃないかな? 美奈が不安に思っていることは実は大したことじゃないかも知れないんだよ?」
「……それでも、私はできない。甘えたくない……」
「そう」
それ以上お母さんは深くは聞いてこなかった。理由も聞かずにただそっとしておいてくれた。お父さんも。
その日の夕方、また部屋に様子を見に来たお母さんがあらと呟いて外を見た。
「美奈、ほらごらん」
お母さんに急かされて被っていた布団から抜け出して外を見る。
「駿太……」
門の前をうろうろとする駿太が見えた。相変わらずチャイムを鳴らすのは気が引けている。眺めていると駿太がこちらに気付き手を振った。
私は奥に引っ込む。
「あらあら」
お母さんはそう呟いて部屋を出ていった。またそっと外を眺めるとまたうろうろしていた駿太にお母さんが声をかけていた。
私はどうすればいいんだ……。
夕飯の時間。どんなに落ち込んでいても夕飯は家族一緒に食べるように言われているから呼ばれて私はリビングに向かう。
椅子に座ろうとしたとき、お父さんが真面目な顔で声をかけてきた。
「美奈、話がある」
背筋が寒くなる。駿太のことだろうか?
「今日、駿太くんが来たそうだね?」
何かを責められるのだろうか?
「美奈はどうして会ってあげなかったんだい?」
「どうしてって……」
それはお父さんに迷惑をかけたくないから。
「駿太くんはね、お母さんに謝っていたそうだ。お父さんのしでかしたことを何も関係ない私たちにね」
「それは……、私が駿太と仲良くしていたらお父さんの会社に影響したり……」
お父さんはふうとため息を吐く。
「いいかい美奈、例えお父さんの会社に影響があったとしても美奈と駿太くんが気にする必要はない。それより何故美奈は駿太くんに声をかけてあげない? 駿太くんはもっと苦しい立場にいるはずだ。美奈ができるのは側にいてあげることじゃないのかい?」
「そんなの……」
つい涙が漏れる。
「そんなの分かってる! でも! だって! 駿太だって家が裕福なせいで一歩踏み出してくれない! 私だって普通に駿太と恋をしたいんだ! 普通だったら!」
つい立ち上がって反抗する。お母さんはキッチンで黙って聞いている。お父さんもうんうんと頷いてから優しく諭してくる。
「私たちが美奈に特別であることを望んだことがあるかい? 普通に健康に生きて普通に恋しても私たちは美奈が笑っていられるんならそれでいいんだよ?」
「お父さんはそう言うけど! 世間はきっと許さないじゃんか! お父さんが甘いから私は私に厳しくしきゃいけないんだ!」
「美奈……」
お母さんが私の背を撫でる。お父さんは目を丸くしていた。
「そうか……。何故かと思っていたが、美奈はそんなことを気にしていたんだな」
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