見てはいけない隙間

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見てはいけない隙間

 ホンのちょっぴりの好奇心のせいで、俺は今ものすごく後悔している。  覗かなきゃ良かった、やめればよかったと何を言おうが、それは全て後出しとなる。  ……今も俺は見られている。  後ろを振り返っても誰もいない。  でも、視線が張り付いて離れない。  確かに見られている。  思春期の時期の自意識過剰のとは違う。  本当に誰かに見られているのだ。  なんであんな事を俺はしたんだ。  冗談半分で覗いた人間が必ずと言って亡くなってるって書いてあったじゃないか。  特定の場所だったら冗談で笑えたし、あんな事をしなかったと思う。  でも条件が揃えば誰でもエレベーターの中で実行出来るだなんて・・・・・・よく有る異世界の行き方っていうインチキな奴程度のことだと思ってた。  でも違ってた。  だって、今現に俺が体験してるんだから。  もっと複雑なルールなら失敗したで済んだのに、なんであんなにも簡単なんだ。  条件  ・エレベーターがある。  ・最上階のボタンを押す。  ・扉が閉まったら、ひたすら扉と扉の間を覗き込む。  止めたい場合  ・目が合う前に止める。  出来ない条件  ・ドアの隙間が無いエレベーター  何処かのタイミングで必ず誰かと目が合う。でもその目はこの世の人じゃない。  目が合うということは、つまりは幽霊と波長が合ったということ。しかも普通は遭遇することの無い類なのだとか。  確か怨霊だとか書いてる人が居た気がする。  毎日毎日品出しの繰り返し。もう今年で10年を迎えるバイト生活。大学の頃真面目に就職活動しなかったツケなんだってことは分かってる。  でも、俺の人生の終わりがまさか呪い殺されるだなんて、誰がそんな終わりが来るだなんて想像するかよ。  こえーよ!?  何だよ、何だよ、何だよ。  こう言うことかよ。  見られるだけじゃないんだ。  聞き間違いじゃない。  確かに奴は俺にこう言った。 『もうすぐ一緒になれるね』  嘘だろ、どういう意味だよ『もうすぐ』って……。  なんとなく、なんとなくだが見られている感じが近くなっているそんな気配はしていた。  でも、本当に近付いて来ていただなんて。  さっきの声は女だった。  振り返ってもやはりいない。  見えたら見えたでそれは嫌だけど。  ていうか聞いてないぞ、耳元で話し掛けられるだなんて、そんなことひとっことも書いてなかったじゃねーか。  そもそも悪いのは実行した俺が一番だって分かってる。  それは分かってるけれども……。  でも、もし声まで聞こえると……か…………。  誰だ?  人が往来を歩いている時に、なんだよいきなり人の前に出て来て。  つーか下を向いてんじゃねーよ。髪を前に垂らして、顔が見えねーから気持ち悪いんだけど。 「ちょっ、そこ突っ立ってると俺前に進めないんすけど」  無反応……。  なんだコイツ、最近よくいるドキュンか。  道を塞がれてるとバイトに間に合わないんだけど。 「あのぉ!? どいて貰えませんかね、俺もうすぐバイトなん………すよ」  俺は思わず言葉を呑み込んだ。本当なら『バイトなんで邪魔なんっすよ』って怒鳴るつもりだった。だが気付いたんだ。俺の周りにいる奴の会話で気付いちまったんだ。  この目の前にいる女は、()()()()()()見えていないってことを。  つまり、この女はこの世のものではないってこと。  エレベータからずっとずっと此処まで付いて来たってことかよ。  今まで俺が無事だったのは、この女が俺の後ろに居たから。  俺は前に進んで行けたから、今日まで生きていけた?  だが、今この女は俺の前に立っている。  視線を左右へと走らせると、まるで俺がガイキチの類だとギャラリーがコソコソと話しているのが見える。  誰か、誰か俺と同じでコイツをこの女を見える奴はいないのか!? 「違う、俺はガイキチじゃねえ。見えるでしょ、ほら、此処、此処だよ。ねえ、そこのお姉さん。あんた見えてんだろ、そこのおっさんさ……」 「おい、頼むよ。誰か、誰かさ、俺と同じでこの女が見える奴いてくれよっ!?」  ……くっ。  ははっ、とうとう腕を握られたよ。 「やめろやめろやめろ、離せ、離せよっ!?」 「いや、本当にみなさんマジなんですって、俺マジで知らない女に手を引っ張られてるんですって」  白い目で俺のことを皆が見ている。  俺と同じことやった他の連中もこういう目にあったのだろうか?  きっと、きっとそうなんだろうな……。  相変わらずこの女は下を向いたまま。  せめて綺麗だったり可愛かったりしたら、ってそんなの漫画の見過ぎか。  現実はそうじゃない。  英語で確かコープス(死体)だったけ、正にその言葉にお似合いなほど青白い手をしている。  なんかホラー映画とかさよく描写あるけどさ、ああいう製作する側の人間って本物見たことあるんかな。  そっくりとは言わねーけどさ、でもさ、めちゃめちゃ再現度高いんですけど。    はっ、ははは、俺いま交差点の赤信号を歩いている。 「アハハハハハハハハハ」 「アハッ、アハッ、アハハハ、ハッ、ハッ」  これじゃあ見えてない奴等には、俺がガイキチにしか見えないんだろうな。  !?    そう言えばこの間、急に歩道橋から手を引っ張られたように落ちた奴がいた。あれって、もしかして……。  パパッ、パ―――――――――――――――――――!?
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