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3
名前も知らぬあの人。その姿を見ることさえ辛くなりいつしか私のルーティンは終わりを告げた。だけどココロにはいつまでもその存在が残り続けた。毎日、一日のどこかで零れ落ちる溜息。でもいくら溜息を吐き出そうともココロは晴れない。
そんなある日。私はあの人の名前を知った。指でなぞるリストの一番下。
そこには二人分の名前が仲良く並び、目の前では夜道を楽しそうに話しながら歩く一組の男女。一人はあの人でもう一人は――カフェに現れた女性。
私は弓を引き一本目を女性の胸に刺した。そしてもう一本の矢を出す。
これを射ればあの人は彼女と結ばれる。決して悪い事じゃないむしろあの人を幸せにするはずなのに――。
「何で私じゃないんだろう」
泪に震える声。もしこの役目を放棄すれば私は消える。
でもこの想いを抱え続けるより――。
「その方が楽なのかな?」
もしかしたらいつかその重さに耐えかねて飛べなくなるかもしれない。嫌味のように青く澄んだ空に包まれながら地に落ちて行くより今、終わる方が良いのかもしれない。
「私は自分の我が儘で誰かの愛を台無しにするの?」
別の人格に問われるように気が付けば私はボソッと呟いていた。
私がこれ程に恋焦がれているように彼もまた彼女に、彼女もまた彼に恋焦がれているのかも。ならそれが砕け、破片がココロに突き刺さった時の痛みも今の私になら容易に理解出来る。
男女の楽し気な会話、同じペースで歩く足音。そして鼻を啜る音。
それぞれの音が絡み合う中で私は弓を構えた。
私は恋のキューピット。互いに想い合う二人を結び愛を繋ぐ存在。
私はただひたすらに誰かと誰かを繋ぐ。
千切れた赤い糸を引きずりながら。
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