ハロウィン

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 魔法少女ひまわり組の祭典 ハロウィンの悪夢編新装版  ゆらゆらと、揺蕩(たゆと)うように、今年の夏は終わろうとしていた。  とんでもない目に遭ったなあ。今年は。  何とはなしに、渡り廊下から校庭を見下ろすと、 「せんせーい!やっほー!」  ああ鬱陶しい。最近買ってやった眼鏡をかけた、巨乳ショートヘアーのおぼこが、俺に向かって脱いだパンツを振っていた。  あー。完全に、生徒との距離感失敗しちゃったなあ。  まさか、あいつがこんな風になるとはなあ。  エメルダ・パストーリ。気をつけないとなあ。  あん?校長室から、アリエール・リトバールと、マリルカ・フランドールが出てきた。 「ああー!ダーリン!ここで会ったが百年目だ大人しくしろおおおおおおい!ふぎゃああああああああ?!」  やおら跳躍して襲いかかってきたアホの頭を、キュッと握ってやった。 「おい、授業終わったんなら、大人しく帰って復習でもしろって」 「(いだ)ああああああ!可愛い愛人生徒にアイアンクローかますたあ何事だ?!お父様に言いつけるぞゴラああああああ!ああ嘘嘘!アリエールううううううう!ダーリンが苛めるのよおおおおお!イジメカッコ悪い!うええええん!」  お前は何を言ってるんだ。 「ああ先生、ごきげんよう」 「私を助けるとかはないのか?!びええええん!」  嘘泣きウゼえよ!放り投げたら、あばん!つっていた 。 「ああ時に先生、魔王研究の第一人者なのでしょう?同時に神聖教団にもお詳しいとか」 「あん?ああ、まあ、それなりに」  自慢じゃないが、多分世界で1番魔王に詳しい自負があった。 「ああならば先生、ペイガニズムってご存知?」  ペイガニズム。古代の宗教形態の1つで、1言で言えば多神信仰形態だった。  勿論、今じゃ国教である神聖教団にとっては、あんまりいただけるものはなかったようで。  ただ、ごくわずかな例外も存在する。  例えばエラル信仰。結婚する時は、ほぼ必ずエラルに婚姻を誓う。俺達はしなかったけど。  多分これ、愛を守護するエラルと、原初の預言者イニエスタ・ジェベドの思想がまあ、形而上で結びついていたと思われる。  まあ、ただ愛愛してたエラルを排斥するほど、教団は人でなしではなかったらしい。  それと、初期の教団の暗部、審神者(さにわ)が信仰した、古の太陽神、ソルスとかもいた。  それと、とても言えないが、アリオーシュって女神もいた。 「あああ。あんま大っぴらに言うなよ?アカデミーは学教分離がきちんと出来てるが、それでも」 「はっ。歴史に学ぶまでもないじゃんか。ジェベド以前とジェベド以降じゃほぼ別物じゃんか。変態の変態による変態の為の教えでしょ?ダーリン、生徒時代にすごい過激な論文書いてたし」 「お陰で、殺されかけたんだぞ俺は。お前等禁止な?教団についてあらゆるコメ禁止な?」 「先生!何も、面と向かって教団と揉めるようなことは、いたしませんわ!要するに、ペイガニズム的古代信仰を、魔王が復建させようとして失敗したお話がありまして!」 「魔王がやろうとして失敗した奴?ゴールデンウィークはあるし。ああ、お盆は消えたんだった。あれ何だったのか、魔王に確認せにゃあ。あとは――何か、ハロウィンとかって、なかったか?」 「左様。ハロウィンである」  現れた、伝説の魔王(ひきこもり)はそう言った。 「あああ。ハロウィンって、あれだろ?煉獄信仰がないとなあ。煉獄が何か、知ってる奴いないだろう。煉󠄁獄に落ちた祖霊を慰めるって、そんな祭りじゃなかったっけ?」 「確かにそうなのだがな?お盆は廃れたのだ。世間では、学習児に対しては、夏休みがあったが、世のお父さん世代に、祖霊をお迎えして、潔斎せよと言ったところで、その休みの補償がなければ絵に描いた餅になるのでな?子供が休みなら、父親は仕事せいという話で落ち着いた。故に、完全に廃れた。西洋のお盆の方が、寧ろ後腐れなくてよいのだ。しかも、市場が大いに潤うのであれば、当然であろう」 「ずらずらと、突然やって来て何だお前は」  何を?!魔王は怒っていた。 「ハッキリ言おう!亭主元気で留守がいい!休まず死ぬまで働けということだ!家に還った金は、娘が使うよう出来ているのだ!元々は、帰ってきた祖霊がバレぬよう、こちらの者達は、祖霊の扮装をしていた。だが!大衆に落ちてしまえば、元々のささやかな願いなど、大衆消費として消えていく運命にあるのだ!今では、様々なコスプレをして街を練り歩くだけの、くだらん祭りになってしまったのだ」 「元々の意義なんて、どうでもいいっつうの。コスプレやれって言うなら、市場はそれに応える義務が生じんのよ。ブティックやってる「ダブリン」で買い物すると、アカデミーの生徒なら8割引きになるって、話つけといた。魔王の屋台も出店するし、結構儲かる祭よ?一枚噛まない?」  何を言ってるんだお前は。ホントに。 「校長の許可も取り付けたし、放課後生徒はダブリンに買いに行くわよ?楽しみねー?」  何これ?結局、魔王に関しては、本人に聞いた方が早い。  俺は呆然と、事態の進捗を座して見守ることになっていた。
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