退職届

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退職届

 今朝のお腹の調子は、昨今では一番の愚図付き模様。今朝もしっかり3回もトイレのお世話になってしまった。  気の弱い俺は、緊張をすると直ぐにお腹を壊してしまう。  今日の原因はと言うと、今左手に持つカバンの中に入っている、昨日スナックで書くことになってしまった退職届である。  今日、俺はそれをあのパワハラ支社長に渡さなければならない。  それが、本社勤務の時に大変お世話になった元上司との約束なのである。  昨日、元上司は俺の事をとても心配してくれ、親身になって相談に乗ってくれた。その彼の言葉を無碍にするなんてことは、人として有り得ないことだと俺は思っている。  それに、それは俺自身も前々から思っていたことで、いつかは乗り越えなければならないこととは思っていたことでもあった。  なので、実際はその切っ掛けを元上司が作ってくれただけで、全て自分の意思でもあるのだ。  間もなく俺の乗る電車は、会社の最寄りの駅に到着する。  想像するだけで、またお腹の調子が悪くなりそうである。しかし、ここまで来てこの計画を辞めてしまっては、この先俺の性格上こんなタイミングが訪れるとは思えない。  であるならば、今日を乗り越えるしかない。  今日を乗り越えさえすれば、明日からは溜まりにたまった有休を消化することで、明日からは自由の身となれる。  長い人生から見ると今日のその時間など、ほんの僅かな時間でしかないのだ。  と、今朝から何度も自分に言い聞かせているのだけど、正直なところやっぱり気が重いなんてもんじゃない。  出来る事なら退職届なんて破り捨てて、今日の日をより楽な方向で過ごしたい、そんな気持ちが本音である。  多分、自分一人で決めての事ならそうしたと思う。でも、これは元上司との約束でもある。ならば絶対に守らなければならない。  支社長の怖さに怯え、元上司の優しさを裏切る訳にはいかないのだ。  だから、俺はこの退職届は絶対にアイツの出社と同時に叩きつけてやる。  そして、今抱えている仕事は全部アイツにくれてやる。  それが今までアイツが俺にした仕打ちの仕返しだ。  どうだ、ざまあみろ困るだろう。  頑張れ俺、アイツなんて全然怖くない。  怖くないんだ、多分…
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