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占い師
そして次の日の夜、俺は元上司に奇妙なスナックに連れて行かれた。何が奇妙かと言うと、カウンターの隅に観たことのないカードを使う女性の占い師が居ることである。
その占い師は、歳の頃なら20代半ば、細身で座っていても分かる程の長身。感じの良さそうな人ではあったが、占い師にしては緊張気味に話す人で、占って貰うには頼りない感じがあった。
元上司は、俺にその占い師に観てもらうことを凄く進めて来た。
そこまで言われると、と思い、観てもらうことにしたが、実は奇麗な人だったので、俺も多少は興味があったのが本音ではある。
頼りなく見えた彼女も、確かに彼女の言ってることは概ね当たってはいたし、驚いたことに子供の頃に嫌いだったシイタケまで当ててしまった。
そこは正直なところ凄いと思ったし、関心もした。ただ、当たっていると俺が分かると言うことは、過去の事であって、過去が当たっても俺には何の意味も無いことである。
肝心な未来に関してはアバウトで、歯切れの悪さが感じられてしまう。それでも悪いことは殆ど言われなかったので、俺は良しとすることにして代金を支払った。
その最中にだけど、不覚にも俺は居眠りをしてしまっていたらしい。
らしいと言うのは、確かにそんな間があったような自覚はあるが、俺の感覚では、ほんの一瞬のように思えていた。だが、実際は2~3分は眠っていたらしいのだ。俺はそれだけ疲れていたのかもしれない。
肝心な退職届についてだが、それは明日出すのが良いと言われた。
もちろんそれを聞いた元上司は、「ほら見ろ」ってな感じである。
それには、俺も
「あ、明日ですか!心の準備も出来て無いのですが」
と、意義を唱えたのだけど、
「一か月後でも心の準備なんて出来ないのだから、とっとと終わらせた方がいい。いいか、明日お前はAIロボットになるんだ。だから何も怖くない!」
そんな気休めを言われて推しに押しまくられ、結局気の弱い俺は押さるがままにその場で、退職届を書く羽目となってしまった。
そこでの時間はあっという間に過ぎ、2時間が経ったところで元上司と俺は帰宅することにした。その帰りのことである。
いつ用意したのか、俺は元上司からA4の茶封筒を渡された。
彼が言うのはそれはお守りだから、退職届を出した後に支社長に呼ばれたら、その封筒を持って行けと言うのである。そして、困ったらその中を見ろと言うのだ。
良く解からないが、それはお守りだからそれまでは中を見てはいけないのだそうだ。
まあ、元上司がそう言うなら、それは守ろうと思うが、一応何故かと聞くと、それもスナックの占い師からの教示なのだそうだ…
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