AIロボット

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 支社長の隣に立つと、 「なんだ、これは」  これまた想定内の言葉が俺を待っていた。 「辞めます」  それに俺も予定通りの言葉を返す。 「どういう事だ」 「辞めます」  心の中では、「いや、それは」と言ってるのだが、本当にロボットになったかの様に、何故か俺の口からは「辞めます」としか出て来ない、不思議にも。  その後も、 「辞めれるわけないだろ」 「辞めます」 「辞めさせないからな」 「辞めます」  そんな意取り留めのない無いやり取りが続いていく。  今まで気の弱さが嘘のように滑らかに俺の口が動いていく。  まるでロボットの様で、俺自身が驚きである。 「じゃあ、辞めるのを辞めるんだな」  ただ、上司も俺の作戦に気付いたのか、臨機応変に作戦を変えて来た。  俺もそれには気付いたのだが、俺の口は勝手に定型文を継げてしまう。 「辞めます」と。  ”しまった”俺は心の中でそう思ったが、後の祭りである。 「そうか、じゃあこの退職届は破棄するからな」と言い、破かれゴミ箱へと捨てられてしまう。  俺は、目ざとい上司の逆転パンチを喰らってしまったのだ。  俺は冷や汗が出る思いでその場に立ち竦んでしまう。  こんなことがあっては、パワハラが返って酷くなることが予想されてしまうのだ。  だが、どうも俺はいつもの俺とは違っているようで、外見上は一滴たりとも冷や汗は出て来ないし、鏡では見ていないが、心とは裏腹にポーカーフェースのままな気がする。  どうなってる俺?そう思いながら、俺は自動運転的に元上司に授けられたA4サイズの封筒型お守りから、その中身を取り出す。  すると、中から出て来たのは新しい退職届で、俺の手はそれを勝手に支社長に押し付けてしまっている。それはまるでロボットのようで、自分が自分で驚きである。そして、 「改めて会社を辞めることにします」 と、勝手に口が動いている。  心の中では冷や汗もののこの行動、しかし、この俺の図太さに流石に気圧されたのか、 「わかった、もういい」  そう言い、俺はそのまま退職へと一気に向かう事となった。  まるで自分に何かが乗り移ったかの様に勝手に事が進んでしまった感じである。
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