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届けたい手紙
静かな冬の朝、雪が降り積もった小さな村に、一人の青年が立っていた。
彼の名前はカズマ。
肩からは小さなカバンが掛けられている。中には大切にしている一通の手紙。
これは彼の心に深い思いを残したものであった。
この手紙は、彼の故郷の村で愛されていたおばあさんからのもので、カズマが中学生の頃からずっと大切にしていたものだ。
おばあさんが他界してからも、カズマはその手紙をずっと胸に抱いて生きてきた。
その手紙には、彼の成長を見守っていたおばあさんの温かい言葉が綴られていた。おばあさんの字は柔らかく、まるでその声が聞こえてくるようだった。しかし、手紙が直接カズマの元に届けられることはなかった。
おばあさんは手紙を書いたものの、その手紙を渡すことができずに逝ってしまったのだ。
カズマが村を離れる直前の事だった。
その後、おばあさんの物を整理していた家族からカズマはその手紙を受け取り、その後はおばあさんの暖かい心と共にずっと生きてきた。
今、カズマはその手紙を持って、再び故郷の村へ戻る決心をしていた。
この村は今や人々が少なく、かつての賑やかさは影を潜めている。
しかし、彼にはどうしてもその手紙を届けなければならない理由があった。
おばあさんの手紙の中にはカズマが村を離れてしまうのが寂しいと言う事や、もし、戻ってくれるのだったらこの家はカズマにあげよう。という約束が書かれていたのだ。
雪が静かに降り続ける中、カズマは村の道を歩きながら、これまでの思い出が次々と蘇ってきた。子ども時代の遊び場、家族と過ごした温かい時間、そして何よりもおばあさんと過ごした穏やかな日々。
彼の心は、あの懐かしい村の風景とおばあさんの優しい声でいっぱいになっていた。
やがて村の中心にたどり着くと、そこにはかつてのおばあさんの家がひっそりと立っていた。カズマはその家の前に立ち止まり、包みをそっと取り出した。彼は深呼吸をし、心の中でおばあさんに語りかけた。
「おばあさん、お待たせしました。これが、届けたい手紙です。」
手紙をそっと家のポストに投函した。
手紙にはカズマからの返事が書かれていた。
おばあさんからの手紙を受け取った後、村が過疎化していくのを進学しながら感じ取っていた事。過疎化する村を活性化できるように色々なことを学んできた。
そして、その素案をもってカズマはおばあさんの家に帰ってきたのだ。
おばあさん、この家でいっしょに村が元気になるのを見てくれ。
彼の心は軽く、一つの大切な約束を果たした安堵感に包まれていた。
故郷の村は変わってしまっても、おばあさんとの約束は決して忘れられない。
カズマはこの村を元気にするための色々な未来を持って帰ってきた。
カズマは心の中でその思いを抱きながら、おばあさんの家をまずは元気にしなくちゃな。と見上げるのだった。
【了】
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