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「・・・・。」
驚いたが、考えてみれば二人は新婚。
しかもしばらくは離れ離れになるんだ。
「体に気をつけてね。銀二さん最近痩せてきたから心配なの。ホントは一緒に行ってあげたいんだけど・・・。食生活とかも気をつけてくださいね。」
心配そうな母親の言葉に、
「ありがとう。大丈夫だよ。」
優しい口調でいいながら、母親を抱き締めた。
そして円香ちゃんのほうに歩みより、
「いつでもこっちに来てもいいんだぞ。何かあったらすぐ連絡しろよ。」
そして無言の円香ちゃんを抱き締めた。
一人娘と父親の感動的な別れ…のはずが、
あれ?長くない?いつまで抱き締めてるの?
うちの母親の時なんかあっという間だったのに、
いくら可愛い一人娘とはいえ、
思春期の女の子にやりすぎでしょ?
するとされるがままだった円香ちゃんが、
さすがに恥ずかしいのか、
ずっと抱き締められてるのが嫌になったのか、
銀二さんの体を手で押し返すような仕草に出た。
円香ちゃんのその行為に、銀二さんはやっと離れた。
それでもしばらく円香ちゃんを見つめたまま、
やがて振り切るようにこちらを向くと、
「じゃあ。行ってくる。」
少し寂しそうな顔で言うと、
そのまま背を向けて歩き出した。
私達3人はデッキまで行き、
銀二さんが乗った飛行機が飛び立つまで見送った。
「・・・・。」
隣で立っていた円香ちゃんが、
デッキの出口に向かって歩き出した。
「・・・・」
それは小さな呟きだったが、
俺の耳には確かに聞こえていた。
驚いた俺は、円香ちゃんの後ろ姿を呆然と見つめていた。
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