脅し

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脅し

義妹の円香ちゃんが引っ越してくる前日、 一足はやく義理の父親の銀二さんが、 中国へと旅立つ。 あんな奴さっさといなくなれと思ったが、 一応義理の父親ということもあり、嫌々だが 俺は母と空港までお見送りに向かった。 出発ロビーに着くと、 すでに義理の父親の銀二さんと義妹の円香ちゃん は到着していた。 「すいません。お待たせしちゃって。」 「いえ、こちらも今着いたばかりですから。」 笑顔で義理の父親の銀二さんは、 俺の母親には返事をするが、 すっと俺の視線を向けると、 やはり睨みつけるような目を向けてくる。 「朋子さん。幸太郎君とちょっと男同士の話をしたいのだけど、いいかな?」 「えっ?」 俺も母親も驚いて同時に声を出し、 お互い顔を見合わせた。 義理の息子になるというのに、 会った時からロクに話もせず、 ガンを飛ばされて続けてる俺としては、 いったい何を言われるのだと構えてしまうが、 まぁどうせ何を言われたとしても、あと1時間も すれば空の上で、当分は顔をあわせることはない。 「はい。わかりました。」 俺は覚悟を決めて頷いた。 銀二さんは、俺を母親と円香ちゃんから少し離れた、 出発ロビーの端に俺を促した。 そして改めてお互い向き合うと、 「幸太郎君。」 「はい。」 「俺がいない間、朋子さんとうちの円香をよろしく頼むぞ。」 えっ?俺のことが嫌いだと思っていたが、 まともなことを言うので戸惑う。 いやあれか?やっぱり大事は娘は、 男の俺しか頼れないと思い直したのか? フッそうか、まぁ安心して任せてくれたまえ、 円香ちゃんはきっと俺が幸せに・・ 「ただなぁ~!」 『円香を頼むぞ!』と、 てっきり言われると思っていた俺は、 ドスの効いた銀二さんの声にビクッとなった。 「頼むぞとは言ったがな、、円香に手ぇ出したら、ただじゃおかねぇからな。もしも手ぇ出してみろ、てめぇを東京湾に沈めてやるからな。」 東京湾に沈める? なんてことを言うんだこの人は! 縛り上げて浮かんでこないように、 重しをつけて沈めるんですよね。 そんなの完全にヤクザのやり方じゃないですか。 やっぱり見た目通りこの人は、 ヤクザだったんだと思っていると、ニヤッと笑い 「まぁ、お前みたいな根暗そうな奴に、うちの円香がなびくとはとても思えないけどな。」 馬鹿にするようなその口調に、 自分の好きな女の息子になんてことを 言うんだと思いながらも、 ここは従順な義理の息子を 演じなければならないと思い、 あえて何も反論せず俯いたままでいる。 「ほら、じゃあ行くぞ。」 俺を呼び出した用件は、 ホントにうちの娘に手を出すなだけのようで、 母親と円香ちゃんのいるもとに歩き出した。 「どうしたの?二人して男同士の話なんて。」 きっと母親は銀二さんと自分の息子が、 熱い何かで結ばれたとでも思っているのだろう。 嬉しそうな顔をしている。 違いますよ~。脅されましたよ~ 今すぐ母親に真実を打ち明けたい。 「幸太郎君に僕の大事な二人のことを頼むぞ!とお願いしてたんだ。」 『嘘つけ~~!東京湾に沈めるって言っただろうが!』 叫びたいのを堪えていると、 「そうなんですね。幸太郎よろしくね。」 銀二さんの言葉を疑うことを知らないうちの母親は、 にっこり笑いこちらを見てくる。 この母親の笑顔を裏切ることはできない。 俺が頷くと、その姿に満足したのか、 「じゃあそろそろ行くよ。」 銀二さんの声に反応したうちの母親が、 銀二さんに抱き着いた。
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