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男子トイレに入って、鏡のある手洗い場の前で蹲る。
幸い中には人はいなくて助かった。
頭の中がぐちゃぐちゃで、わけがわからないまま涙がにじんでくる。
膝を抱えて両腕で顔を覆う。
「…っ、なんで…」
僕自身も僕のことがわからない。
もうわからないよ…。
すると突然ドアが開いた。
混乱した状態のまま顔を上げると、そこにいたのは藤堂くんだった。
こんな時に…本当にタイムリーすぎる。
驚いた顔をする藤堂くんにいたたまれなくて、でも動けなくてまた顔を両腕に埋める。
どうしよう…。
「…悪い。俺のせい、だよな」
藤堂くんの声。
「昨日言ったこと、全部忘れていい。…ごめんな、ほんと」
遠慮がちに頭にポンと置かれた手。
顔を上げると、僕より苦しそうな表情をした藤堂くん。
君にそんな顔をしてほしくないのに。
するとまた突然ドアが開いて、知らない生徒が数人入ってきた。
どうして僕はトイレに逃げてしまったのだろうか…。
彼らは僕を見てぎょっとした顔をした。
そうだよね、僕みたいなのがトイレで泣いてたらそんな顔にもなるよね。
どうしよう…とおろおろしてたら藤堂くんが僕の右手を掴んでトイレから連れ出してくれた。
「とりあえず下向いとけ」
廊下には何人か生徒がいたけど、顔を見られずにすんだのか騒がれることもなく廊下の端まで来れた。
藤堂くんは服の裾で優しく涙を拭ってくれた。
「ごめんね…ありがとう」
「あぁ。もう泣くな、あいつが悲しむ」
…そっか。
ここまでしてくれるのも全部、圭太くんのためなんだよね。
涙は止まった。
でもその後どうやって藤堂くんとわかれたのか、圭太くんとどんな話をしたのか全然覚えていない。
ずっと上の空だったかもしれない。
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