第3話 初めの一歩

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「で、詰まるところ」 蜜姫が恐る恐る、話を切り出した。 「何をすればよろしいでしょうか?」 「料理の練習ね」 それは、そう。当たり前過ぎる回答だった。 「ファンに元気を与えるような、ね」 それは蜜姫にとって難しい注文だった。なぜならば。 「……私、料理ができないんです……」 知ってた。レトルト食品を手作りとして、堂々とインスタに上げるくらいだから。  以前、手料理を振舞ったときも、誰も飲み込むことさえ、できなかった。それどころか、吐き出されたのだ。『オマエノリョウリハヒトヲコロセル』とまで言われたこともあったくらいだ。 「大丈夫。そこは死ぬほど努力しよう」 と蜜姫のマネージャーは胸を張った。 ……大丈夫の意味とは? 「私がこれまで作った料理を見せてあげますよ」 蜜姫は、そう言って、スマホを取り出した。 写真付きのプロフィールに載せられていたものは……。 ・キノコカレー(具材:キノコだけ) ・カキのムニエル風焼き物(材料:カキだけ) ・野菜炒め(素材:野菜だけ) ・山菜の天ぷら(材料:山菜だけ) 「……これはひどい」 夕美は目を覆った。 「どこの世界に、調理前の食材だけを出すアイドルがいるのよ!」 「私です」 蜜姫は申し訳なさそうに言った。 「アナタ、どうやって今まで食事をしてきたの?」 夕美が尋ねた。 「ゼリーとか、サプリメントとか……」 「そういう問題じゃないわ!なんでマネージャーの私がこんなになるまで気づかなかったのかしら……」 夕美は頭を抱えた。 前途多難。その四字熟語が似合う様相はそうそうないだろうな、夕美は考えた。
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