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「で、詰まるところ」
蜜姫が恐る恐る、話を切り出した。
「何をすればよろしいでしょうか?」
「料理の練習ね」
それは、そう。当たり前過ぎる回答だった。
「ファンに元気を与えるような、ね」
それは蜜姫にとって難しい注文だった。なぜならば。
「……私、料理ができないんです……」
知ってた。レトルト食品を手作りとして、堂々とインスタに上げるくらいだから。
以前、手料理を振舞ったときも、誰も飲み込むことさえ、できなかった。それどころか、吐き出されたのだ。『オマエノリョウリハヒトヲコロセル』とまで言われたこともあったくらいだ。
「大丈夫。そこは死ぬほど努力しよう」
と蜜姫のマネージャーは胸を張った。
……大丈夫の意味とは?
「私がこれまで作った料理を見せてあげますよ」 蜜姫は、そう言って、スマホを取り出した。
写真付きのプロフィールに載せられていたものは……。
・キノコカレー(具材:キノコだけ)
・カキのムニエル風焼き物(材料:カキだけ)
・野菜炒め(素材:野菜だけ)
・山菜の天ぷら(材料:山菜だけ)
「……これはひどい」
夕美は目を覆った。
「どこの世界に、調理前の食材だけを出すアイドルがいるのよ!」
「私です」
蜜姫は申し訳なさそうに言った。
「アナタ、どうやって今まで食事をしてきたの?」
夕美が尋ねた。
「ゼリーとか、サプリメントとか……」
「そういう問題じゃないわ!なんでマネージャーの私がこんなになるまで気づかなかったのかしら……」
夕美は頭を抱えた。
前途多難。その四字熟語が似合う様相はそうそうないだろうな、夕美は考えた。
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