第3話 初めの一歩

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「それで、何を作ればいいのかな?」 と蜜姫が尋ねた。 「そうね」夕美が言った。 「蜜姫は、作りたいもの、あるの?」 「……思いつかないな」 蜜姫は困惑したように言った。そもそも自分の得意な料理に自信がないのだ。 「じゃあ、得意分野から探っていきましょうか」 夕美は提案した。 「あなたの好きな食べ物は?」 「レトルト食品です!」 蜜姫が答えた。 「……それは料理じゃないわ」 夕美は呆れ顔で言った。 「でも、レトルト食品って便利ですよ」 蜜姫が反論した。 「だって、レンチンするだけで、美味しい料理ができちゃうんですよ!」 「それを世間では、料理したとは言わないんだって……」 夕美は呆れ顔で遠い目をしていた。 「じゃあ、気を取り直して」 夕美が改めて言った。 「あなたの好きな料理は?」 「なんだろう?」 蜜姫は考え込んだ。 「甘いものとか、いいですね。ケーキ……ケーキが食べたい」 「あなたは自分で再現できる?」 夕美は尋ねた。 「できません」 蜜姫はまたも言葉に詰まった。そうだ、レトルト食品のレンチンしか、自分にはできないのだ。 「じゃあ、スイーツ作りに絞ってみる?」 「そうします……」 とうなだれる蜜姫だった。 かくして、アイドルシェフ育成計画が始動したのだった…… このとき、三ノ宮蜜姫は、14歳。 長く苦しい冬の時期だった。
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