第3話 初めの一歩

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「手続きはようやく済んだね」と、夕美の。 「やっと……」と蜜姫。  書類を提出し、ようやく登録が済んだのだ。  これで、アイドル×シェフとしての一歩を踏み出したのだと思ったが。 「じゃあ、次は筆記試験だね」 夕美が言った。 「筆記……試験?」 「そう。筆記試験」 夕美が頷く。 「あれ?説明してなかったっけ?」 「してないよ!」 蜜姫は叫んだ。 「じゃあ、まずこれね」と夕美が取り出したのは……。 「テキストですか?」 「そっ、5冊あるから」 「多いな」と蜜姫は思った。 「これって何のために受けるの?」 「それはね」と夕美。 「料理を食べてもらうってことは、その人の健康にも、気を遣うってことだよ。万が一、食中毒を起こしては、いけないからね」 「なるほど」と、蜜姫は頷いた。 筆記試験は、全部で5つの科目から出題される。 「公衆衛生学」 「食品学」 「栄養学」 「食品衛生学」 「調理理論」 である。 「なんだか、大変だな……」蜜姫がぼやいた。 「ちゃんと勉強しないと受からないからね」 夕美が言った。 「みんな、受かるまで、どれくらいかかるの?」 と蜜姫。 「3ヶ月くらいかな」 「……そんなに!?」 「そう、これくらいは覚悟しておいて」 と言って、テキストを5冊ドンっと手渡した。  1冊だけでも、なかなかの厚みで、その重量感に、蜜姫はうんざりした表情を浮かべたという。  ところが、一週間後、蜜姫は筆記試験にパスしたことを協会支部からの通知で夕美は知った。 「嘘でしょ?」 「フフーンだ」 蜜姫は、呆気にとられる夕美の前で、胸を張ってみせた。(もっとも、張るだけの胸のサイズは無かったが。) テキストを片手で頭上に掲げた。 「意外ね。蜜姫のことだから、もうちょっと時間かかると思ったけど」  夕美の言葉に蜜姫は、ピースサインをしながら言った。 「学校の成績は、上位ですから!」 「……えっ?」と夕美がのけぞった。 「上位?」 蜜姫は頷いた。 「うん、ほらっ」とスマホを取り出し、成績表を見せた。 「見て、これ」  蜜姫の見せた成績表は、各科目の平均点と偏差値が記載されていた。 「……すごいわね」 「でしょ?」と蜜姫は胸を張った。 「なるほど、脳みそに栄養を取られた分、その胸はぺったんこなのね……」 夕美がボソッと言った。 「何か言った?」 「いえ、別に」と夕美は首を振った。
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