第4話 町中華にて

3/8
前へ
/113ページ
次へ
 アイドル×シェフとして登録を済ませたはいいが、蜜姫は、早速、壁にぶち当たっていた。 「はあ……」 蜜姫は、大きな(くそでかい)溜め息をついた。 「どうしたの?」と、マネージャーの烏丸夕美。 「料理って、難しい。てか、奥が深い……」 「そりゃそうよ。有史以来の人間の努力と叡知が詰まっているからね。 レトルト食品で、楽しようとしてきた蜜姫からすれば、当然の反応かしら?」 さらりと毒を、このマネージャーは吐いた。 「うぐっ!」 蜜姫の胸は、抉られた。 まさに、クリティカルヒット。  蜜姫は、悔しさのあまり、拳を握りこんだ。  だが……たしかに夕美の言うとおりである。  蜜姫は料理のことなんて何も分からないのだから……。  蜜姫は、夕美から料理の手ほどきを受けていた。  プロの料理人や調理学校の講師から教えを乞うほどの、事務所は資金はなかった。  白羽の矢が立ったのが、烏丸夕美だった。  蜜姫の目から見て、夕美の料理の腕は、かなりのものだった。 「いい? 包丁を持つときは猫の手よ」 「はい!」と、蜜姫。 「お鍋は、火加減が大事よ」と、夕美。 「はい! お鍋は火加減!」と、蜜姫。 「お肉を切るときは繊維に沿って」と、夕美。 「はい! 繊維に沿って!」と、蜜姫。 「魚を三枚におろすときは、中骨を意識して」と、夕美。 「はい! 中骨!」と、蜜姫。  夕美は、料理のいろはを懇切丁寧に教えてくれた。
/113ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加