第4話 町中華にて

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 夕美は、『傀儡町飯店(かいらいちょうはんてん)』という中華屋に蜜姫を案内した。 「ここは、あたしの行きつけなんだ」 「へえ……」と、蜜姫。 「じゃあ、中に入りましょうか?」と、夕美。  2人は、店の中に入った。  店内は、昼時とあって賑わっていた。  テーブル席に座ると、メニュー表を見た。 「何にする?」と夕美が聞いた。 「うーむ……」と、炒飯(チャーハン)にしようかな……」と、蜜姫。 「じゃあ、私はタンメン」と夕美。 「決まり!」と、蜜姫。 「すいませーん!」と、夕美がカウンター越しに、注文ををする。 「はい!」と、返事をしたのは、若い女性だった。 「注文いいですか?」と、夕美が言う。 「はい! どうぞ」 「炒飯とタンメン、一つずつお願いします」と夕美。 「かしこまりました!」 オーダーを受けた女性は、手元のメモに記帳すると、中華鍋を振り始めた。 「あの人……美人」 カウンターから厨房を眺めながら、蜜姫は、ふと、言葉にする。 「そうだねぇ」と夕美。 「持田和美さん。蜜姫と同じ、アイドル×シェフの登録者よ」 「えっ?そうなんですか?」 「まあ、彼女の方が大先輩だけど」  蜜姫は、和美の後ろ姿を見つめた。  ポニーテールにした後ろ髪が、手際よく中華鍋を振る度に、ぴょんぴょんと跳ねる。  その後ろ姿は、とても魅力的に見えた。 「夕美さん。私、まだ、高校生ですから。大先輩っていう年齢じゃありません」  持田和美が、夕美と蜜姫のいるカウンターの方を振り向いた。  蜜姫は、改めて、和美を見る。  和美は、少し切れ長の瞳に、長いまつ毛をしていた。鼻筋は通っていて、唇も薄いが色っぽい。  年齢は蜜姫の2歳から3歳くらい上だろうか? 「こちら、持田和美さん。町中華『リトル・チャイナ・ガールズ』に所属しているの」 夕美が、和美を紹介した。 「持田和美です」 「はじめまして。私、三ノ宮蜜姫です」 「よろしくね」 と、和美は軽く会釈した。  『傀儡町飯店』は、彼女の祖父が始めたということだ。祖父亡き今、和美が跡を継いで、切り盛りしているとのことだった。 「蜜姫ちゃんは中学生なんだ」 と和美が話しかける。 「はい! 中学2年生です」と蜜姫。 「そっかあ……」 すると、夕美が口を挟んだ。 「蜜姫は、料理がまだまだ下手っぴだけど、素直な子だよ。頑張り屋さんだし」 「そうなんですか?」 「はい! 頑張ります!」 「そっかあ……」 「お互い、頑張ろうね」 「はい!」 蜜姫は、元気よく返事をした。 「じゃあ、次は、夕美さんと蜜姫ちゃんの分、作っちゃいますね!」  そして、和美は、再び、中華鍋を振るい出した。  和美は、その容姿だけではなく、料理の手際も良かった。  中華鍋に、油を引いたら、溶き卵、米、叉焼(チャーシュー)、そして、長葱(ながねぎ)の微塵切り。これらの具材を順番に投入して、強い火力で、鍋をガシガシと煽る。  熱々のチャーハンが、蜜姫の目の前に運ばれてきた。 「はい! おまちどうさま」 「わーい!いただきます」 一口食べると……その美味しさに驚いた。  卵や油にコーティングされ、ご飯はパラパラで、でも、お米には適度に水分が残っていて、パサパサした食感は感じなかった。 「美味しい!」と素直に喜ぶ蜜姫を見て、和美は、満足げな笑みを浮かべた。 「よかった。夕美さんのタンメンもいっちゃいます!」
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