第4話 町中華にて

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「美味しかった。私、満足です」  和美からサービスということで烏龍茶が出され、これを飲みながら、余韻に浸っていた。 「アイドル×シェフって、色んな人がいるけど、和美さんのように、お祖父さんの味を再現したいって思いで、なる人もいるのよね」 食事を終える頃には、昼食のピークは過ぎ去り、客足は疎らだった。 『傀儡町飯店』の店内は広くはなく、カウンターを除けば、4人掛けのテーブル席が2組あるのみだ。  和美曰く、ワンオペで回せるから、ちょうど良いのだと語った。 「あー、他に従業員の人はいるのよ。学校のあるときとか、どうしようもないからね」 和美は、汗を拭いながら、笑った。 「ところで……」と、和美。 「はい?」 「蜜姫ちゃん、お料理は楽しい?」 和美が聞いてきたので、蜜姫は胸を張って答えた。 「もちろんです! お料理をしてるときは幸せです」 「そっかあ……蜜姫ちゃんは、いい子だね」 「はい! ありがとうございます」と蜜姫。 「あの、聞いても良いですか?」 「なあに?」 「和美さん。さっきから、和美さんをガン見してる人がいるんですけど……」 「えっ?」と、夕美。 「そこのテーブル席」と夕美が指差した。 「本当だ!」と夕美。  眼鏡をかけた男性がまばたきもしないで、食い入るように、和美をじっと注視していたのだ。 「もしかして、ストーカー!?」  それなら、警察に連絡して、相応の対応を求めないといけない。ところが……。 「あー、違う、違う」  和美は頰をかきながら、照れ臭そうに答えた。 「じゃあ、何?」 と夕美。 「私の夫……」 和美の言葉で夕美が硬直した。 「えっ!? 和美さん……結婚してるの?」 夕美が驚いたように、和美と男性を見比べる。  不釣り合いにも程があると思ったからだ。 「嘘でーす!」 和美の一言で、夕美はずっこけた。 「夕美さん。そんな簡単なジョークに引っ掛からないで。今は、女性も18歳にならないと結婚できませんよ」 蜜姫がツッコミを入れた。 「あの人は、私のファンですよ」 夕美と蜜姫は、もう一度、眼鏡の男性を観察した。 年齢は20代後半だろうか? 髪は短く刈り上げられている。 「私が厨房に立つと、いつも、そこにいるんです」 和美は笑いながら言った。 「そうなんだ……」 「ちょっと……怖いんですけど」 夕美と蜜姫は、顔がひきつる。 「でも、ちょこちょこ、お店にお金を落としてくれるんで、まあ、いいかなと……」 和美は、笑いながら答えた。 「そういうものですか……」 「でも、なんで、わたしのシフト、知ってるんだか、謎なんですよね」 やっぱり、和美のストーカーなのでは? 二人は、心の中でツッコミを入れた。
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