第5話 協会本部にて

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須崎を先頭にして、3人は部屋を出るとエレベータに乗りこんだ。これから移動しなければならないらしい。 3人を乗せたエレベーターは、45階から30階まで降りて行く。 エレベーターを降りると、奥に長い廊下が広がっていた。 須崎は廊下を歩いて行く。2人はそれに続いた。 「ここです」 須崎が立ち止まった。 そこには、「特別会員専用」と書かれたプレートがあった。 須崎は、ドア横のインターホンを押した。すると、ドアのロックが解除される音がした。 「どうぞ」 と須崎に促されて、2人は部屋の中に入った。 中は、広々とした空間が広がっている。 ガラス張りの窓から、ちょうど会場の様子が見える。窓際にはテーブルがあり、椅子が4つ並んでいる。 「こちらで、ご覧下さい」 蜜姫は、料理対決がこれから行われる会場を見下ろした。 会場の中央に、キッチンが設置されているのが見えた。ガスコンロや冷蔵庫、オーブンなどが併設されている。 床はフローリングで壁や天井は白を基調としている。そして、キッチンから離れた位置に、大きなテーブルが置かれている。 審査員席だろうか、ネームプレートが置かれているがわかる。テーブルクロスは真っ白で清潔な印象を与える。 須崎が蜜姫にオペラグラスを手渡した。 「大きな部屋ですね。VIP待遇みたい」 「そうですね。一般のかたは、入室禁止ですから」 と須崎が答える。 「私たちは、こんな待遇を受けて良いのですか?」 と、夕美。 「アイドル×シェフに登録されている方と、事務局の関係者の方は問題ありませんよ」 須崎が笑みを絶やさず、答える。 周囲を見回すと確かに業界人と思われる服装の人間が散見することに気づく。 「時間です」 部屋に備え付けられたモニターにも、映像が映し出される。広い会場。調理場。そして、料理人が2人。 一人は、コックコートをきっちり着込んだ真面目な雰囲気の少年。 須崎が説明を続ける。 「彼は、中野光生(こうせい)君。料理学校に通っていると情報がありますね」 そして、もう一人は、中野よりも年齢が若い。蜜姫と同年代、または、少し上かな?と夕美は読んだ。 「長瀞(ながとろ)拓弥君。ファンからは、『トロタク』の愛称で親しまれています」 古い表現だが、少女漫画から出てきたような、まるで、王子さまと言わんばかりの雰囲気と甘い顔立ちだった。 「拓弥くんには、もうひとつ、愛称があります。それは……」 会員から黄色い歓声が沸き上がる。女性の声が大半だった。 須崎は、話を中断して、ミキシングのボリュームレバーを摘まんで、音量を絞った。 「彼のもうひとつのあだ名。それは……『オリーブオイルの魔術師』……」
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