Daddy

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私の朝は、時にパパの泣き声で目覚めるところから始まる。 ああ また見てるんだ パパは確かに感動屋さんだ。でも、朝からぐしゃぐしゃの泣き顔で「おはよう」って言われてもね… 「その映画、何回目?」 「何回見たって泣けるものは泣けるの」 ちーんと鼻をかんでパパは口を尖らせた。ソファに座って毛布にくるまり、ティッシュの箱を抱えている。恋人時代のママともう何度観たか知れない、お気に入りの映画だ。 「イチトさんさぁ」 私はため息をついた。パパの名前は伊智人(いちと)と言うが、「パパ」と呼ばれるのを嫌って名前呼びを強制されている。 「子どもじゃないんだから、帰ったらご飯食べてお風呂入りなさいよ」 パパは夜の仕事をしているから、帰ってくるのは明け方になる。テーブルの上には手つかずの晩ごはん。せっかくのスーツもシャツもしわくちゃで、床にネクタイと靴下が脱ぎ捨てられている。 「奈那(なな)と食べるんだよ。一人じゃ寂しいもん」 まだ涙目でパパは言い訳した。 「朝ごはん作るから、せめて着替えて。何ならシャワー浴びてきたら」 「その間に一人で食べたりしない?」 「しないよ」 「ホントに?」 私が頷くと、パパはやっと笑顔になってバスルームへ向かった。 やれやれ 私はお母さんか いつもは過保護で親バカ全開の優しいパパだけど、時々こんなふうに子どもに返ってしまう。 ママが早くに死んでしまったからかもしれないが、甘えん坊にも程がある。まあ、だからと言ってパパが父親業の全てを放棄しているわけではないので、私も仕方なく付き合ってあげてるのだけど。 でも、私はもう高校一年生。彼氏とだって自由に遊びに行きたいお年頃。時々「うざ」って思うくらい、いいよね。
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