Daddy

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「…ママはさ。きっと、こんな日が来るってわかってたんだ。奈那が俺に愛想つかして、男の元へ行っちゃうって」 「ねえ。何か私すごい悪者になってない?」 当たり前の親離れじゃない。子離れ出来ないパパがおかしいんだからね。それに… 「イチトさんを嫌いになんかならないし、捨てたりしないよ」 パパの肩がぴくっと動いた。丸まった背中に私は話しかけた。 「パパのことはずっと大好きだよ」 「…パパって言うな。一気にジジくさくなる」 「だってパパだもん。ママと奈那の大事なパパだよ」 ママの言葉に背中を押されて、胸の辺りがふんわりあったかくなった。ちょっとじーんとしてたら、パパが盛大に鼻をすすった。 「うう、…っ」 私はパパの髪の毛にそっと触れて、優しく撫でてあげた。ママの膝枕で嬉しそうにしているパパの記憶がよみがえる。ぐすっと声をこらえてる子どもみたいなパパ。ずっと寂しかったのに、いちばん愛してたママまで失ってしまった。ママのお葬式の時は泣きじゃくる私を抱きしめてくれて、いちばん悲しかったのはパパなのに、人前では涙を流さなかった。 人よりつらい思いをしてきたから、みんなの寂しさに敏感で、自分よりも他人の幸せを願ってしまう。パパからもらった笑顔を、今度は私がお返ししなきゃね。 「…奈那。日曜日、ドライブ行こうよ」 「あ。えっと、瞬くんと出かける」 「マジかよ」 鼻声のパパがまた不機嫌そうになる。 「今日はダメなの? ママのお墓参りもしたいな」 「…そっか。じゃあ、午後」 「うん」 安心したのか、パパはすうっと眠りに落ちていった。せっかくだから、あのブラウス着てみようかな。そうだ。パパにもおねだりしなきゃ! 手紙の最後に書いてあったママの言葉。 ひとつだけお願い ママの分までパパを大好きでいてあげて そしたら 今度は二人の笑顔が私に届くから その気持ちは私の中にずっとあるよ、ママ。 ウザくてもムカついても、絶対になくなったりしない。二人と同じことを自分も考えていたのが、とても誇らしく思えた。そして、私がどんなにパパを好きかってことも。それはやっぱり、パパがちゃんと私と向き合ってくれたからだと思う。 ママ 教えてくれてありがとう 遠い日のママが、私の指先を通してパパに触れているみたいだ。あの時と同じ幸せそうな横顔で、パパは眠っていた。
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