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放課後、瞬くんとカフェに行った。
彼はアイスコーヒー、私は桃のパフェを頼んだ。
「イチトさん、何をするつもりなんだろうな」
すっかり彼まで名前呼びになってる。変な父親に付き合ってくれる優しい人でよかった。
「今さら家族会議で何を話すんだろ」
「俺のことかな」
「もう高校生なのに、彼氏のことでとやかく言われたくないよ。過保護すぎ」
「愛されてるねー」
瞬くんはカランと氷の音をさせて、ブラックのままコーヒーを飲んだ。甘々のパパと違って、優しいのに適度にクールだ。私が憧れるのも無理はないと思う。
「パフェ、おいしい?」
「うん! 食べる?」
スプーンですくって差し出すと瞬くんが口を開けた。明るい栗色の髪に鳶色の瞳が窓からの陽射しに輝いている。クリームを頬張る色っぽい笑顔に私は急にドキドキしてきて、彼と目を合わせて微笑んだ。
不意にガラス窓をコンコンと叩く音がした。
あ…
パパが立っていた。ダークスーツに身を包んで、ネクタイはピンクみたいなパープル。ふわっとした髪の毛を今日はひとつに結わえている。
悔しいから絶対言わないけど、出勤時のこの姿は結構イケてる。
私はにっこり笑って手を振った。仏頂面のパパの口元が少しだけ緩んで、素早くウインクすると颯爽と歩いていった。
「はー。さすが人気ナンバーワンホストだね。バラの花束とか似合いそう」
心なしか瞬くんはうっとりした口調になっている。今のは絶対、彼への牽制だ。
「こんな大きな娘がいるのに、詐欺だよね」
「でも、全部オープンにしてるんでしょ」
高校生の娘がいることも、未だにママを愛してることも。だから、パパは同伴もアフターもしないで全部断っている。プレゼントも誕生日以外は貰わない。それでもお客さんはパパと話すのが楽しいらしい。みんなの笑顔だけが望みだなんて、やっぱりパパの天職なんだって思う。
泣き虫の甘えん坊なのは、きっと秘密なんだね。
「思うんだけど、奈那も結構ファザコンだよね」
「えーー!」
「うちの姉貴なんて親父と口もきかないよ。あんなイケメンじゃないけどさ」
「そうなんだ…」
よその事情はよくわからない。
パパのことは好きだけど、最近は鬱陶しくもある。私は母親でも妻でもないしって思う。何よりも、瞬くんに指摘されたのが恥ずかしかった。
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