Daddy

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「遅い」 もう十一時になる。 十時には帰るって言ってたのに パパが約束を破るなんて珍しい。メッセージは送ってみたけど既読は付かない。 まさか 何かあったんじゃ… 急に心配になって電話をかけた。 コール音が鳴り続いて、諦めかけた時だった。 『ごめん』 いきなりパパの声がした。後ろではどんちゃん騒ぎの声が聞こえてくる。 「何かあったの」 『いや。常連さんにつかまっちゃって遅くなりそうだ』 「えー! 瞬くんとの時間を削って帰ってきたんだよ?」 『だから悪かったって』 パパは何だかイライラした声だった。こっちだって待ちくたびれてお腹もすいてる。急に気が抜けて私は投げやりになった。 「もういい。言うこと聞いて損した」 『うるさい。帰ったら話すよ。じゃ』 あっけないほどあっさり電話は切れた。 何それ 冷えたパエリアを取り分けて電子レンジにかけた。ライトが庫内を照らすのをぼんやり見ながら、今の会話を思い出した。 お客さんが大事なのはわかるけど あの態度は何なのよ 遅れてむしゃくしゃしてると携帯が鳴った。おばあちゃんからだ。 『起きてたー?』 「今からごはんなの」 『えっ、遅いじゃない。伊智人くんは?』 「仕事」 『珍しい。じゃあ、今一人なの?』 「うん…」 急に心細くなって黙り込むと、おばあちゃんが明るく言った。 『今から行こっか。プレゼントも渡したいし。日付けが変わる前には着くわよ』 おばあちゃんはママのママだ。車で二十分のところに住んでいる。おじいちゃんは早寝早起きが日課の人だから、夜更かしのおばあちゃんはたまに時間を持て余してうちに遊びに来たりする。
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